©212 Berlin/Mallerich Films
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戦場という過酷な状況をとおして戦争と人間を切り撮っていく戦場カメラマン、報道写真家のパイオニアともいえるロバート・キャパ(本名:フリードマン・エンドレ・エルネー、1913.10.22―1954.5.25)。彼の生誕100年を記念してさまざまな書籍やドキュメンタリー作品が公開されている。

本作は、2011年に製作された作品。スペイン内戦を撮っていたキャパのフィルムが、第2次世界大戦はじめパリに在ったスタジオから忽然と消えた。行方不明になったその作品群は、メキシコにあるらしいとのうわさが立ち、2007年にダンボールで作られた3つの箱に収められた126本のロールフィルム(ネガ4,500枚)もの写真が発見された。キャパだけではなく当時仲間だったゲルダ・タローとデヴィッド・シーモア’シム’の撮影ネガもいっしょに保存されていた。この貴重な発見は、’メキシカン・スーツケース’と呼ばれ、そのミステリアスな道程を掘り起こしていくうちに当時のスペイン内戦が現代に与えている大きな影響を詳(つまび)らかにする。

キャパの実弟コーネル・キャパ(国際写真センター[ICP]創設者)からネガの捜索を相談されたのは、写真キュレーター(日本の学芸員にあたる専門家)で映像作家でもあるメキシコシティ在住のトリーシャ・ジフ監督。

ネガは、キャパの暗室助手イメレ’チーキ’ヴァイスからメキシコのアギラール・ゴンザレス将軍に委ねられたという関係者の証言たどり、当時の持ち主ベン・ターヴァ―からICPに’メキシカン・スーツケース’が返還される経緯が紹介されていく。

©212 Berlin/Mallerich Films
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キャパ、ゲルダ、シーモアら3人は、何を撮っていたのか。

スペイン国王が国外へ亡命したのち、1936年2月に国民総選挙で誕生した共和派人民戦線内閣に対抗して、7月にフランシスコ・フランコを中心とした右派反乱軍がほう起して起きたスペイン内戦。右派反乱軍はファシズム陣営のドイツ・イタリアのほか保守派やカトリック教会などが支持した。近隣諸国政府が静観する中、メキシコとソ連は反ファシズムの立場から共和派人民戦線政府を支持し、キャパら3人も人民戦線軍と行動を共にして撮影した。

次第に劣勢へ転じ、国外へ逃亡、亡命せざるを得なくなる人民戦線と人民たち。だが近隣国の対応には厳しいものがある。その過酷さを映し出していくキャパらの写真。

70年の歴史を経ても、スペイン内戦が残した心の深い傷は、現代にも複雑な感情と政治状況をもたらしている。弦楽四重奏の音楽にのって、キャパらがフィルムに刻み込んだ一コマ一コマが、その重みを読み解いていく。 【遠山清一】

監督:トリーシャ・ジフ 2011年/スペイン=メキシコ/86分/原題:THE MEXICAN SUITCASE 配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム 2013年8月24日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.m-s-capa.com
Facebook:https://www.facebook.com/MexicanSuitcase20130824

ドキュマイアミ国際映画祭ベスト歴史ドキュメンタリー受賞、シネ・ラ・アメリカ国際映画祭ベスト長編ドキュメンタリー観客賞受賞、ロサンゼルス・ラテン国際映画祭選外佳作、国連協会映画祭2012公式選出作品。