©2013 Project B.S. LLC
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センターマイクで脚光を浴びて歌うスター。スターたちの歌を支え、時にはセッションで盛り上げるバックコーラスのシンガー。だれでもステージのセンターマイクを目指して飛び込んだ世界だが、センターマイクとバックコーラスとの距離はおよそ6メートル(20フィート)。だが、そこに立つことも、立ち続けるにも、その距離はなんとも遠くて厳しい。’60―’90年代にソウルミュージック、ロックシーンの舞台でスターたちに劣らない歌唱力を認められたバックコーラスの黒人女性たち。彼女たちの多くが、教会の聖歌隊で歌うことの喜びを体感し、歌を磨き上げ、夢をもってステージに立った。その6メートルの見た目よりも厳しくて遠いが、夢をもってあきらめない魂の歌が奏でられていく。

センターマイクとバックコーラスのマイクの距離が、到達するのには何とも難しいとコメントしているのは’ザ・ボス’の愛称で親しまれているロックンローラーのブルース・スプリングスティーン。彼のコメントの表現が本作のタイトルにもなっている。スプリングスティーンのほかミック・ジャガー、スティングらトップアーティストたちが、自分のステージのバックコーラスに招き、アーティストとして魂からの音楽を共演した彼女たちへの称賛を惜しまない。

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‘彼女たち’としておもに取材されているシンガーたちは、’ブロッサムズ’のダーレン・ラヴ、ゴスペルシンガーとしても有名なタタ・ヴェガ、’レイレッツ’のメリー・クレイトン、ティナ・ターナーのバックで参加していた’アイケッツ’のクラウディア・リニア、ローリング・ストーンズなど数多くのアーティストらのセッション・ヴォーカリストとして知られるリサ・フィッシャー、マイケル・ジャクソン最期の映画「ディス・イズ・イット」と追悼式典で注目されたジュディス・ヒルら6人の紆余曲折な歩みが語られている。そのほか、グロりア・ジョーンズ、メイブル・ジョンなど数多くのシンガーたちが取材に応えている。

そのなかでもメインストーリー的に登場しているのが、ダーレン・ラヴ。エルヴィス・プレスリーやフランク・シナトラのバックを務め早くから認められていたが、ブロッサムズが録音した曲をクリスタルズの曲として出されるなどプロデューサーに画策されたり、悔しいエピソードも語られる。実力は認められていてもソロシンガーへの夢を果たせないことに傷つき一度は退いて家政婦で生計を立てていた時、ラジオから流れる自分の歌声を聞きチャレンジすべき自分の居場所へ戻る決心をしたダーレン。ロック殿堂入りした彼女は「自分の才能を活かすため、努力したのが私の人生ね」と、振り返る。

教会の聖歌隊で育ったメリー・クレイトンは「心を込めて歌えば、必ずスターになれる」とピュアな思いで飛び込んだ世界。だが、ソロ活動を始めたのは’70年代からだ。ミック・ジャガーとデヴィット・ボーイが、楽曲づくりのモデルにもしたクラウディア・リニアは、音楽の世界を退きロサンゼルスで教会の牧師を務めている。ジュディス・ヒルは、巡ってきたチャンスを掴み、ソロシンガーを目標に自分の可能性を発展させようとチャレンジしている。

本作の中で使われている数々のヒットナンバーや名曲たち。邦題に表現されている歌姫(Diva)とは、もとはオペラの主演女性歌手を指した称賛の言葉。現在では広いジャンルで使われているが、リサ・フィッシャーらの声に包まれると、日本で好んで用いられている感覚がよく分かる。

60年代、70年代のソウルシンガーの多くが、教会の聖歌隊で歌うことの喜びと感動を培われてきた。そこから与えられ、目指した夢・ヴィジョンへの歩みと努力。このドキュメンタリーには、音楽シーンでの挫折や厳しさがストレートに語られる一方で、アーティストたちがステージで、レコーディングで互いの才能をぶつけあえる異次元のような喜びも存分に表現されている。その感動と夢をあきらめない努力が、多くの人の心を揺さぶる。なぜなら、夢をあきらめず、腹を据えてチャレンジするかどうかは、どの世界に生きていても通じる在り方なのだから。 【遠山清一】

監督:モーガン・ネヴィル 2013年/アメリカ/90分/原題:TWENTY FEET FROM STARDOM 配給:コムストック・グループ 2013年12月14日(土)よりBunkamuraル・シネマにてロードショー。
公式サイト:http://center20.com
Facebook:https://www.facebook.com/center20movie/

2014年第86回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞。2013年プロヴィンスタウン国際映画祭観客賞、サンフランシスコ国際映画祭観客賞受賞作品、リバー・ラン国際映画祭ドキュメンタリー審査委員特別賞、シアトル国際映画祭ゴールデン・スペース・ニードル賞、最優秀ドキュメンタリー賞受賞作品。