映画「グォさんの仮装大賞」――老人だからこそ希望に向かって人生を生きる
1960年代中ごろ’核家族’のキーワードは、高齢者の単独世帯急増と産業構造の変化から都市への人口集中など顕著化をよく表現していた。現在も長寿化する親世代の介護問題、孤老死の問題を追い続けている日本。隣国中国では、一人っ子政策の影響も受けて30年後には、日本の現状を超えるような超高齢化社会の到来が懸念されているという。
妻を亡くしたグォさん(シュイ・ホァンシャン)は、娘夫婦に家を引き渡してかつての同僚チョウさん(ウー・ティエンミン)が入居している公営の老人ホームを目指して旅に出る。
途中、グォさんは孫の結婚式に立ち寄り、遺産を整理した20万元の大金を「家を建てる頭金に」と手渡そうとする。グォさんの息子は、確執があって父親のグォさんに招待状も出さずにいた。孫へのお祝い金も招待客が大勢いるなかで激しく罵り突き返させた。
老人ホームに着くとチョウさんが温かく迎えてくれた。だが入居室は満室でベッドもない。補助ベッドでその夜は寝たが、初めて失禁したグォさんは大きなショックを受け、自己憐憫に陥り自殺しようとする。懸命に働き、歳取った今になって息子には恨まれ、行く所も寝る所もない。何のための人生だったのか。チョウさんも娘と8年間音信不通のままという寂しさをもっている。
翌日、入所者たちが協力してベッドと寝具を作り、女性院長(イエン・ビンイエン)の理解も得て入居者になったグォさん。チョウさんは、天津で開催される仮装大会に出場するため練習しているチームの仲間にグォさんを入れる。麻雀パイを被りで役満を作るパフォーマンスの練習中、2人がぶつかり怪我をした。健康面でも安全面でも老人に天津までの旅は無理と女性院長は断固反対する。
人数は減ったがチョウさんはあきらめない。廃車場からバスを調達してきて、大会に出場しようと目論む仲間たち7人でホームを抜け出し、天津へと向かう。
車いすに乗っているリンさん(ワン・ダーシュン)は、「天井を眺めながら、死を待つ人生なんて何の意味もない」と主張し続け、同行を断るチョウさんたちを困らせる。認知症を患い娘の顔さえ忘れたリーさん(リー・ビン)は、チョウさんを夫だと思い込んでいろいろ世話を焼く。チョウさんもリーさんの夫役を受け入れてリーさんに対応する。それぞれが、家族との関係に痛みを持っている。その一言ひとことが、本音とともに胸に秘めた目標に向かって立ち向かっていきたい。何歳になっても、その希望に向かって行動止揚とするのが人間らしさなのだろう。
老人ホームがある場所として設定された寧夏回族自治区から天津市まではバスで20時間足らずの距離らしい。草原を疾走する馬の一群、遊牧民相手にパフォーマンスの練習をし、ゲルに招かれて和気あいあいと団らんする喜び。ロードムービーとしても人との出会いをふんだんに組み入れ楽しませてくれる。
なにより、中国でもTV放映されていた「欽ちゃんの仮装大賞」をモチーフに、3位までの入賞チームは日本での大会に出場できるという設定は、最近の日中間の政治的緊張感を超えて人間同士の関係が互いの敬愛の念にあることを伝えてくれている。それは、チャン・ヤン監督自身が、本作に登場する熟達した老俳優たちへの敬愛とも深くつながっていることを感じさせられる。 【遠山清一】
監督:チャン・ヤン 2012年/中国/北京語/104分/原題:飛越老人院 英題:Full Circle 配給:コンテンツセブン 2014年1月11日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://guosan.jp
Facebook:https://www.facebook.com/pages/C7cinemaC7/608439439205018
2012年第25回東京国際映画祭アジア映画賞スペシャル・メンション受賞、第4回ドーハトライベッカ映画賞観客賞受賞作品。