映画「神さまがくれた娘」――引き離された愛娘を捜し歩く知能レベル6歳児の父親物語
映画の醍醐味の一つには、笑いあり・涙あり・歌あり、そして心にいつまでも温もりの残る余韻が共鳴している作品との出会いがある。インド映画だが、音楽とダンスシーンの挿入は適度だし、その感動と楽しさを心行くまで味わえる作品だ。
南インドの避暑地ウッティーにあるチョコレート工場で働くクリシュナ(ヴィクラム)。妻ヴァーヌマティが出産のときに他界し、遺された5歳の愛娘ニラー(ベイビー・サーラー)との二人暮らしだが、知能は6歳児程度のため村人たちに手助けされながら子育てしている。
クリシュナは、知能だけでなく心の柔らかさと素直さも6歳の幼子のよう。うそのつきかたは知らず、正直で教えられたことはきちんと守る。工場長も真面目で正直なクリシュナには、信頼を置く。
愛娘ニラーが小学校に通うようになった。スクールバスを見送ったものの、心配と不安が心に広がると、工場を抜けて学校へ見に行ってしまうクリシュナ。家に帰ってくると、二人は物語を語りあって楽しむ。クリシュナは歌い踊るが、次第に話が混乱するとニラーはすかさず突っ込みを入れる。
学校の事務局長シュヴェータとも仲良しになったニラー。だが、ある日シュヴェータは、ニラーが家出したまま音信不通になっていた姉ヴァーヌマティの娘であることを知る。資産家の父親ラージェンドランは、6歳の知能と心のクリシュナに子育ては無理と考え、住まいがある州都チェンナイに向かう途中、クリシュナだけを車から降ろしてニラーを連れ去ってしまう。
愛娘ニラーを必死に捜し回るクリシュナ。町の裁判所で、経験の浅い女性弁護士アヌラーダー(アヌシュカー)の事務所に迷い込み、ただただニラーに会いたいと頼むのだが…。
多言語社会のインド。映画も多言語で製作され、それぞれの言語社会でスターが派出されている。唐突な感じだろうが何であろうが、突然ミュージカルのように歌とダンスが始まる作品が多いのもインド的なサービスの表れか。
この作品には、そうしたある種しつこいイメージの歌やダンスは控えられている感じだ。知能の低いクリシュナの風貌やコミカルな歩き方と、かわいらしくオシャマなニラーの会話に、楽しさと和みを満喫させてくれる前半。娘の忘れ形見を心配して手元で育てようとする資産家の父親とベテラン弁護士らに、正義感だけで立ち向かおうとする若手弁護士アヌラーダーたちとの裁判闘争で畳み掛けていく後半の展開。
亡くなった妻の父親も、クリシュナの無垢な思いも、ニラーを愛する故であることに変わりはない。強引な方法とは言え、5年後、10年後のニラーの負担を心配するのも当然。子どもを愛する父親同士の心の糸もつれが、どう解かれようとするのか。心憎い脚色に魅せられる。 【遠山清一】
監督:A. L. ヴィジャイ 2011年/インド/タミル語、英語/149分/原題:Deiva Thirumagal 英題:God’s Own Child/カラー/DCP(5.1ch) 配給:太秦 2014年2月15日(土)よりユーロスペース、シネマート六本木ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.u-picc.com/kamisama/
Facebook:https://www.facebook.com/kamisamamovie
2012年第7回大阪アジアン映画祭グランプリ・ABC賞受賞、ヴィジャイ・アワード最優秀男優賞・審査員特別賞・人気女優賞受賞、SIIM男優賞受賞、ジャヤ・アワード最優秀男優賞、最優秀子役賞、人気女優賞・人気監督賞・最優秀作詞家賞受賞、ヴィカタン・アワード最優秀男優賞・最優秀子役賞受賞作品。