映画「はじまりの街」--夫のDVから逃れる母子 やり直し可能だから人生は素晴らしい
イタリア映画には、思春期の子どもと家族の物語を描いた秀逸な作品が多くある。本作もそのような一つに数え上げられる作品だが、夫のDV(ドメスティック・バイオレンス)に耐え切れなくなり息子と逃げだす家族の崩壊から物語が語られ、日々の出来事と向き合いながら人生の再起へ歩みはじめるストーリー展開と視点が現代のイタリアを物語っている。
本作は、容易にハッピーエンドを予感させないため、ストーリー展開は重くなりがち。それでいて、ささやかに差し込む希望への出来事に一瞬の和らぎを表情に浮かべるアンナとヴァレリオ。現実の毎日には小さな戦いが目の前にあるが、自分で拠り所を見い出し、自分の一歩を踏み出そうとする母子。そのようなマッテオ監督の人生賛歌は、35ミリフィルム撮影よる秋の陽光の温もりや、「怖くなったときは過去の失敗を思う。それが人生…」とシャーリー・バッシーが力強く謳い上げる「This is my life」(イタリア語版La Vita)によって、やり直し人生のはじまりへのエールをしっかり送っている。
【あらすじ】
ローマから北イタリアの都市トリノへ向かう列車。物憂い表情で車窓の景色を見つめるアンナ(マルゲリータ・ブイ)と13歳の息子ヴァレリオ(アンドレア・ピットリーノ)。アンナは夫の暴力から逃れるためヴァレリオとともに親友カルラ(ヴァレリア・ゴリーノ)の家に身を寄せて暮らしを立て直そうと考える。
独り身のキャリアウーマンだがカルラは、アンナの心情を親身に聴き、父親も暴力を見てきてトラウマになりつつあるヴァレリオを優しく受け入れる。だがヴァレリオは、サッカーボールで遊ぶ隣家の父子をうらやましく眺めていて複雑な想いに揺れ動く。郷土意識の強いなかでまだ学校に友達はいない。サッカーの仲間にも入れないヴァレリオを見て元サッカー選手だったトラットリアのオーナー店長マチュー(ブリュノ・トデスキーニ)が気にかけてくれて親しくなった。
また、あてもなく自転車で公園を走り周っていて少し年上のラリッサ(カテリーナ・シェルハ)というストリートガールに出会い憧れのような初恋をいだくが、少年とって彼女の現実は夢を破る大きな衝撃だった。
アンナがようやく職に就いた日、ヴァレリオは自分宛てに届いていた父親からの手紙をアンナが仕舞い込んでいたのを見つけてショックを受け、やり場のない怒りに駆られて家を飛び出す。うろたえるアンナを見ていっしょに町を探し回るマチュー。二人はポー川に架かる橋げたに腰掛けているヴァレリオを見つける…。
【見どころ・エピソード】
北イタリアのことでイタリア第4の都市トリノの街並みと晩秋の風情が、アンナとヴァレリオの心情に映えて美しい。ポー川のほとりに広がるヴァレンティ―ノ公園はアンナとカルラが散歩しながら語り合い、ヴァレリオは自転車で走り回りながらストリートガールのラリッサを見染めてしまう。カルラが住むアパートは毎週蚤の市が開かれるボルゴドーラ地区でアンナとカルラが家財を探すシーンも印象的。アンナとヴァレリオが休日に訪れるモーレ・アントネリアーナ(国立映画博物館)の内部や、ヴァレリオがラリッサに誘われた待ち合わせ場所は、トリノ王宮、トリノ大聖堂、マダマ宮殿など歴史的建造物に囲まれたカステッロ広場で“初デート”のドキドキ感がほほえましい。
マッテオ監督は、本作のテーマを「人生をどうやって立て直すかの物語だが、“よそ者”の話しでもあります」という。「ローマとトリノはイタリアの町だが全然違う(文化の)町ですし、ヴァレリオはトリノでは完全によそ者なのです。“初恋の彼女”ラリッサは外国人ですし、トラットリアのオーナーもフランス人です。ですから、孤独の物語でもあるのです」。世界が一つの村になった現代のこの問題にも、マッテオ監督は一つの象徴をラストシークエンスに描いているのが印象的だ。【遠山清一】
監督:イヴァーノ・デ・マッテオ 2016年/イタリア/107分/原題:LA VITA POSSIBILE、英題:A POSSIBLE LIFE 配給:クレストインターナショナル 2017年10月28日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.crest-inter.co.jp/hajimarinomachi/
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*AWAED*
イタリア映画祭2017(4月29日~5月6日=東京・有楽町朝日ホール)特別上映作品。