島民は家族・村民らとともに溶岩洞窟に逃げ込んだが。 ©2012 Japari Film

2007年に火山島と溶岩洞窟群がユネスコ世界自然遺産に登録され、韓国最大の観光地として知られる美しい島・済州島。東京都ほどの面積の島に、かつては耽羅(タクラ)民族の王国が存在し独自の神話・文化を保っていた。先の大戦直後、南北に分断され米軍政管理下での単独選挙に反対する島民の蜂起が1948年4月3日に起きた。この事件を契機に7年半にもおよぶ島民粛清の嵐が吹き荒ぶ。その慟哭の日々を描いている。

漢拏山山麓の山里ドングァン里を占拠した韓国軍。上官が、小雪の舞うなか荒らされた家屋に入ってくる。既に一人の将兵が居て、なにかに陶酔しているかのように小刀を研いでいる。その背後の押入れには息絶えた全裸の女性が押し込められているが、上官は気にも留めず神棚に供えられていた梨を頬張る…。

溶岩洞窟に逃げ込んだ村人たち。手には「海岸線5kmより内陸にいる人間を暴徒と見なし、無条件で射殺せよ」と書かれた布告文がある。誰彼なく島民蜂起に加担する’共産主義者’として射殺するという無謀な命令。だが、島民たちは’明日には終わるだろう’とまだ一縷の望みを抱いている。だが、村の家屋は焼き払い、村民の掃討、婦女への暴行が容赦なく実行されていく。そしてドングァン洞窟に隠れていた村民たちにも、掃討隊の銃剣は迫ってきた。

気心のいい島民は、負傷している兵士にジャガイモを差し出したというのに… ©2012 Japari Film

オ・ミヨル監督は、いまは美しい観光の島のベールに包まれた済州島の虚飾を取り去るかのように白黒映画に仕上げている。また、4・3事件の歴史的真相を究明するのではなく、’共産主義者’のレッテルを張られ意味も分からぬまま虐殺された3万人とも6万人ともいわれる犠牲者への慰霊の想いを共有するための作品に作り上げている。

監督自身が済州島の出身であり、「神位」(シンニイ:魂を呼び起こして祭る)、「神廟」(シンミョ:魂がとどまるところ)、「飲福」(ウンボク:魂が残した食べ物を分け合って食べる祭事)、「焼紙」(ソジ:神位を焼きながら唱える願い)という、島民に親しまれている耽羅神話の4つの祭事をモチーフにシークエンスを構成している。

‘チスル’とは、済州島の方言でジャガイモのこと。痩せた土地でも収穫できる貴重なジャガイモを、村の老婆は掃討にやってきた負傷兵にも分け与えようとしたという。命令とはいえ、意味も分からず無抵抗の島民らを殺害していく兵士らの悲痛さ。オ・ミヨル監督は、兵士らの心の苦しみにも耽羅神話の哀しみと温もりを宣べているのだろう。 【遠山清一】

監督・脚本:オ・ミヨル 2012年/韓国/108分/白黒/英題:Jiseul 配給:太秦 2014年3月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.u-picc.com/Jiseul/intro.html
Facebook:https://www.facebook.com/Jiseulmovie?skip_nax_wizard=true

2013年サンダンス映画祭ワールドシネマ・グランプリ受賞。ロッテルダム国際映画祭スペクトラム部門招待作品。2012年釜山国際映画祭ネットパック賞、観客賞、市民批評家賞、DGK 賞、CGV 映画コラージュ賞6部門受賞作品。