仮釈放されたが韓国とマルティニークとは12,400Km離れている。余りの遠さに呆然とするジョンヨン。 © 2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

まさに青天の霹靂。日々凡々とした暮らしに、友人の自殺、降り注いできた借金、生活苦にささやかれたちょっと危ない話に乗ってしまった出来心。小さな積み重ねが、事件を招き、周囲の無関心が2年以上も家族が離れ離れになる大事へと発展する。これは映画の作り事ではなく、実際起きた出来事。その危うさと家族が共に暮らすことの大切さが身に染みてくる。

小さいながら町工場を営むジョンベ(コ・ス)は、妻ジョンヨン(チョン・ドヨン)と幼いひとり娘ヘリン(カン・ジウ)の平凡だが幸せな家庭に満足している。だが、連帯保証人になっていた友人が自殺したことから、2億ウォン(約2千万円)の負債を負わされた。窮地に陥ったジョンベに長年の友人ムンド(チェ・ミンチョル)が、ジョンヨンに「フランスまで金の原石を持って行ってもらえれば大金の報酬を渡す。もし、バレても罰金を払うだけだ」という話を持ってきた。
ジョンベは断ったが、悩みながらも夫に相談せずに受けてしまったジョンヨン。だが、オオルリー空港で現行犯逮捕されたジョンヨンは、中身が大量の麻薬だったことを知る。フランス語も英語も全く話せないジョンヨンには、検察にも弁護士にも麻薬と知らずに運んだいきさつを説明できない。検察も弁護士も、大使館に通訳を要請するジョンヨンに勧めるが、大使館のチョウ課長(ペ・ソンウ)は犯罪者としてしか見ず、全く動こうとはしない。
妻が麻薬犯罪で逮捕されたことを韓国で知ったジョンベは、検察へ抗議に行きムンドが指名手配中の犯罪者だったことを知る。ジョンヨンの無罪を証言させるためムンドを探し回る。だが、ムンドは暴力団からも追われていた。
ジョンベの努力が実り、韓国の裁判所から重要な書類がフランスの大使館に送付されたが、犯罪事件としてあまり気にしていなかったチョウ課長は、その重要書類を見ることなく紛失し、その事さえ忘れてしまう。ジョンヨンは、きちんと裁判にかけられないままフランスからカリブ海マルティニーク島の刑務所へ送られ収監されてしまう。

「ママの顔、忘れちゃいそうだよ…」と、待ちわびるヘリンのひとことが切ない。 © 2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

韓国の「追跡60分」というドキュメンタリー番組で実際に報道された事件がモチーフになっている。実際に起きた事件では無実が証明されたが、日本人にとっても1992年に起きた事件がある。旅行先で現地ガイドから渡されたスーツケースの二重底から麻薬が出てきた日本人観光旅行客5人が、オーストラリアのメルボルン空港で緊急逮捕された。5人は無実を主張し続け、現地の日本語教会なども支援したが15年から25年の実刑判決が下り服役した。いつわが身に起こっても不思議ではない出来事なのだ。

外国で、ひとたび事件に巻き込まれると言語でのコミュニケーション、法的な問題が複雑に絡み困難な状況に置かれる。無実を信じ、行動し、帰りを待ちわびる家族の強い絆。生活の苦しさからの出来心で765日間も家族と離れ離れになり孤独の淵に立たされたジョンヨン。妻でいられなくなり、母としてわが子を育むことのできなかったことを自分への重い罰として受け止める悔悟することばが、観る者の心響いてくる。 【遠山清一】

監督:パン・ウンジン 2013年/韓国/韓国語、フランス語/131分/映倫:G/原題:Way Back Home 配給:CJ Entertainment Japan 2014年8月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://martinique-movie.com/

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