左からカリ、ペルッティ、サミ、トニのパンクロックバンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」 © Mouka Flimi Oy

フィンランドのパンクロックバンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」(PKN)。学習障害、自閉症、ダウン症など知的障害や精神障害をもつ4人の男性たちが、グループホームでのワークショップで出会い2009年に結成され、リリースしたレコードやCDはほぼ完売、いまは国外へライブツアーする人気ロックバンドだ。
彼らの日常を18カ月間取材し、曲作りや演奏活動、練習でのいざこざなどを追っている。ノーマライゼーションには、ハンディキャップを持つ人たちのために理解を深め、受け入れるという健常者の視点がチラつくことがある。だが、PKNの4人を追ったこのドキュメントは、周囲のちょっとした出来事に翻弄されたり、日常の不満をROCKに叫ぶ彼らの視線で描かれている。心に鎧をまとわない、PKNの楽曲、感性には不思議な爽快感がある。

フィンランド福音ルター派教会とフィンランド正教会が国教に認められているフィンランドには、自分のファーストネームを祝う日がある。バンド名の「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」とは、ギターと作曲・編曲・作詞を担当しているペルッティ・クリカンの’ペルッティの日’にちなんで付けられた。
ペルティ(57歳)は、裁縫の仕事を経験したときから服などの縫い目が無性に気になる。目を近づけてシュル、シュルと擬音を発しながら縫い目をチェックする姿はまるでヘビがまとわりついているようだ。
ベース担当のサミ・ヘレは、あまり物事にこだわらない。少し神経質なカリとは、バンドの練習でもケンカの種になってしまう。だが、メンバーの中ではもっとも政治への関心が強い。とりわけ美人党首の政治家にぞっこんで、政党の集会にはボランティスタッフとして応援に行く熱心さ。
ドラムスのトニ・ヴァリタロ(32)は、とにかく自宅にいることが大好き。。両親は、トニの将来的にのもグループホームへ引っ越してほしいと希望しているがグループホームは大嫌い。ところが、見学に行ったグループホームでガールフレンドにしたい女の子とであった。トニは、そのグループホームに引っ越してもいいと言い出したのだが…。

作詞・作曲・ギターのペルッティ(手前)と作詞・作曲・ヴォーカルのカリ © Mouka Flimi Oy

 

PKNのライブシーンも多く、「国会じゃ議員さんがあれこれ約束するけど 同じ議員さんが毎日約束を破る 国会なんか大嫌いだ こんな社会大嫌いだ」(’こんな社会大嫌いだ’ペルッティ作曲、カリ作詞)と歌詞のテロップが流れると思わず同感してしまう。シーンでの観客ものっている。
高福祉社会のフィンランドで、彼らは基本的にはグループホームで暮らす年金生活者だ。政治や社会のシステムへのクレームや苛立ちは、健常者の市民と同じ。周囲の出来事に影響されやすいペルティは、翻弄し、感じた不満や喜怒哀楽を、心に鎧をまとわずストレートに楽曲で表現する。彼ら4人の個性が響き合って爆発するパンクスに引き付けられていく。
「少しばかりの敬意と平等が欲しい 少しばかりの敬意と尊厳が欲しい」(’カッリオーン’ペルッティ作曲、カリ作詞)と叫んだ彼らの想いが届いたのだろうか。大統領の晩餐会にペルッティが招待され、彼の緊張しているシーンを見ると、ハンディキャップを個性として受け入れているようでフィンランドという国のキャパシティの広さを思わせられる。パンクロックなのに、なんとも爽やかなドキュメンタリーだ。 【遠山清一】

監督:ユッカ・カルッカイネン、J=P・パッシ 2012年/フィンランド=ノルウェー=スウェーデン/85分/原題:Kovasikajuttu 配給:エスパース・サロウ 2015年1月17日(土)よりイメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://punksyndrome.net
Facebook https://www.facebook.com/punksyndrome.jp

2013年山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション部門出品作、フィンランド映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞、SXSW映画祭観客賞受賞。2012年タンペレ映画祭観客賞受賞、ビジョン・ドゥ・リール スイスニヨン国際ドキュメンタリー映画祭最優秀イノベーションフィルム賞受賞作品。