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ナチスドイツ占領下のポーランド・ワルシャワで、動物園の園長夫妻がゲットーからユダヤ人を自宅に匿(かくま)い300人もの逃亡を手伝った実話の映画化。ホロコーストの迫害から大勢のユダヤ人いのちを救った実話には、軍需生産工場の実業家オスカー・シンドラーやリトアニア大使だった日本人外交官・杉原千畝らが広く知られている。だが、シンドラーや杉原らのような公的権威や立場を持たない占領下の一市民として、ナチスの暴虐な行動に抵抗したヤンとアントニーナ夫妻。その救出活動は、生きとし生けるものの“いのち”を守り育むために人間が創造された使命と尊厳を思い起こさせ、生きることへの希望と勇気を指し示している。

【あらすじ】
1939年9月、ポーランドの首都ワルシャワにある世界規模の動物園がいつもの朝のように開園した。園長のヤン・ジャビンスキ(マイケル・マケルハットン)とアントニーナ(ジェシカ・チャステイン)夫妻は、スタッフたちと共に来園者たちを笑顔で迎える。自転車に乗って園内の動物たちにも名前で呼びかけ朝の挨拶をアントニーナ。だが突然、ナチスドイツ軍の爆撃機が動物園を襲ってきた。

ドイツ軍の奇襲攻撃を受け瞬く間に占領されたポーランド。動物たちのいのちを救いたいヤンは、当局や関係者らとの交渉に奔走する。そこにヒトラー直属の動物学者ヘック(ダニエル・ブリュール)がアントニーナに「あなたの動物園の希少動物を預かろう」と申し出てきた。アントニーナは渡りに船の話に即答してしまったが、ヤンは不審なものを感じる。その不信感は、数日後やってきたヘックらが「上官の命令」として危険な猛獣や動物たちを次々に射殺いていく現実を目の当たりにする。

ワルシャワ市内にわずか4キロ平方メートルの地域をゲットーが造り変えられ、およそ40万人のユダヤ人が押し込められた。なんとか動物園を存続させたいヤンは、ドイツ兵の食糧補給のため動物園で豚を飼育し、ゲットーの残飯を餌にする提案を申請し許可された。毎日、残飯を回収に行くヤンは、その醜悪な状況を見過ごせなくなり、ドイツ兵に暴行を受けた少女を生ごみの中に潜ませて動物園に連れ帰る。警護の兵士らは夜になると宿営へ引き揚げていく。ヤンとアントニーナは、ごみトラックに潜ませてゲットーから連れ出してきたユダヤ人たちを自宅や動物園の地下の檻に匿い、危険な状況や安全な時間になるとアントニーナがピアノを弾いて知らせた。

ヤンはコルチャックから移送される子どもたちの「恐れを克服させてほしい」と辛い援助を委ねられる (C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

ヤンは、ユダヤ人たちの逃亡先や偽造パスポートの手筈など、地下活動が多くなり不在がちになる。逃亡先が決まると順次送り出されていくユダヤ人たち。動物園園長の妻として一人で匿っているユダヤ人たちを護るアントニーナにも、危険な日々が続いていく…。

【見どころ・エピソード】
動物学者のヘックが、希少動物の保護をアントニーナに持ち掛け、自身が研究しているバイソンの希少種復元を進めようとしながら、他の動物は劣等扱いで殺処分していく。ナチスドイツは、それを人種の優劣にも偏見をもって実践しワルシャワのゲットーなどホロコーストへと暴走する。その中には、小児科医で教育者のヤヌシュ・コルチャックと200人の子どもたちがトレブリンカ強制収容所へ移送されるシークエンスにも描かれている。ヤンは、なんとかコルチャックだけでも救出しようとするが、コルチャックは子どもたちと最後までいっしょに過ごすことを選択する。ユダ人と共に暮らしてきた市民には、人種の優劣ではなく人間として互いの尊厳を認め合う意思が本作をとおして伝わってくる。

妻アントニーナはクリスチャンだったが、ヤンと同じくユダヤ人への偏見はなく不条理な情況へ追い込まれていく人間を救うことに、一人の人間として危険を省みず行動していく。少しでも多くの時間を動物たちと過ごそうとするアントニーナ。神に創造され、エデンの園を管理する務めを委ねられた人間は、殺すことではなく人間も動物も生きとし生けるものの“いのち”を護り、生かすための管理者なのだろうと思わせられる。 【遠山清一】

監督:ニキ・カーロ 2017年/チェコ=イギリス=アメリカ/英語/127分/原題:The Zookeeper’s Wife 配給:ファントム・フィルム 2017年12月15日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー。
公式サイト http://zookeepers-wife.jp
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