インタビュー:エリック・ポッペ監督 「ヒトラーに屈しなかった国王」
ナチスドイツが中立国ノルウェーに侵攻し降伏を迫ったとき、ヒトラーに毅然と「ノー」を回答した国王ホーコン7世。その緊迫した3日間を描いた映画「ヒトラーに屈しなかった国王」が12月16日(土)より全国順次公開される。当時の混乱する情況のなかで「制度としての国王ではなく“人間としての国王”を史実に照らして忠実に描きたかったというエリック・ポッペ監督に話を聞いた。【遠山清一】
↓ レビュー記事は下記URLへ ↓
https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=18196
史実に忠実な“人間
としての国王”描く
―― ホーコン7世が、国王として「NO」を決断したことはどれくらい広く知られていることなのですか。また、この作品を撮ろうと思った理由はなんですか。
ポッペ監督:ホーコン国王がこのような決断をしたということは、学校でも簡潔に教えられています。でも、実際にこれほどドラマチックな事実であったということは、あまり知られていません。この映画で描かれているほど自分を犠牲にして、あるいは自分の家族(オラフ皇太子夫妻と孫たち)を危険にさらしてまで(ノルウェーが立憲君主国として独立する際に国民投票で選ばれた国王として)自分が仕える国民のため民主主義のために立ち上がった国家リーダーがいたことは知らせるべきだと思いました。
今、アメリカを含む西欧世界には、仕えるべき国民のためにではなく自分のことばかりを気遣っている国家リーダーが増えてきているような気はしています。ですから、この作品では、ヒーローではなくて実際にいた人をなるべく忠実に描くことで、私たちは国家リーダーにどのようなことを期待すべきかを思い起こさせるのも大切だと思いました。そのためには、ヒーローではなくて、また制度としての王ではなくて、“人間としての王”を描きたかったのです。
私たちは国家リーダーに
何を求めることができるか
―― 近年、国際的に右翼勢力が増大している傾向にあるように思います。そのようなことも作品のメッセージとして意識しましたか。
ポッペ監督:確かに、ネオナチの台頭や右傾化というものがあります。ですが、そのことよりも、この映画で描いた(ホーコン国王や)ドイツのブロイアー公使のようなリーダーがいたことも知ってほしいことです。ブロイアー公使はナチスではありませんでした。ドイツ人全員がナチスだったわけではなく、むしろナチスではなかった人たちの方が多かったのです。実際の戦争には複雑さがありますし、実際の歴史というものは、そう簡単に白黒をつけられるものではありません。正しいか否か、あるいはヒーローか否かということではなく、普通の人間というものは疑いも抱きますし、もがいていくものですね。そういうリーダーがいたことは今日的にも意義がありますし、そういう人がいたことを伝えたかったのです。
先ほども言いましたが、いま私たちはリーダーに何を求めることができるのか、ということを思い起こしてもらうためにも本作を描くことが必要だと思いました。いま実際にいるリーダーがおかしなことになっているとしたら、それは私たちのシステムにも何かおかしなところがあるのではないかという警鐘を鳴らす意味もありました。
もう一つ大切なことは、これを経験した人たちは今はもう90歳代になるだろうを思いますが、彼らが亡くなる前にこの作品を作りたかったのです。それは、実際に経験した人たちにアドバイスしていただいて、なるべく正確な、正しい、史実に忠実なものを作りたいと思っていました。
中立国への攻撃に驚かされ
非常な混乱状態での決断
―― この映画を観て、正しい応答とは何かを求めて苦悩し、家族を守ろうとする国王の在り方が“光”として描かれているように感じられました。一方で、ヒトラーの存在は電話からブロイアー公使に命令する声だけですので不気味な闇の力のようなものを感じました。監督は、リーダーとしての国王をそのような光として描こうとされたのでしょうか?
ポッペ監督:この映画での国王のキャラクターは、常に何が正しいのか、疑問を抱いている人物なのです。ですから、はっきり白黒をつけていないのです。ドイツの侵攻に対して、政府は首都から逃れて交渉すればよいといっている間に、小さな政党のクヴィスリング党首が、「これから私が首相として国を先導する」と宣言して一種の種クーデターが起こりました。国王は政府をプッシュしてヒトラーに対して何らかの応答をすべきと思ったのです。その情況のままでいればクヴィスリングに政権を奪われ、ドイツに国を占領されたままでいることになります。国王は、それは国民の望んでいることではないと思っていました。だが、国王には政治的実権は与えられていないので。自分にできる形で政府と議員らに自らの決断を示しました。つまり、ドイツに対して「NO」と言い宣戦布告すること
を望みました。宣戦布告しないのであれば、ホーコン7世は国王を退位し、ノルウェーの王族も断絶することになります。
もう一つのヴァージョンとしては、何を信じてよいのかが分からなかったため、みんなが非常に混乱していたということです。中立国であるのにドイツは攻撃してきたのです。オラフ皇太子は攻撃される危険を進言しましたが、国王は政府に任せようとしました。皇太子妃は「正しい側につきましょう」と言いますが、正しい側が何なのかわからないのです。ロシアもいればイギリスもいる、どちらが正しいのか分からないためみんなが混乱していました。そのような非常に混乱していた情況が、この映画でもっとも描きたかったのです。
―― この作品では、家族の絆というものがとても丁寧に描かれていました。そのような中で印象的だったのは、皇太子が国王に対して王の在り方について「私は父上のような国王にはなりたくありません」と明言するシーンがありました。父と子の確執のような関係だったのでしょうか。
ポッペ監督:この映画で皇太子が息子として国王に話したことは史実に基づいています。私は、それは大切なことと思いました。だが、私はそれが親子の確執であったとは思っていません。ノルウェーの伝統としてこのような話し方はごく普通のことなのです。家族間の対立ではなく、ごく普通の会話の流れなのです。
首都から逃れて彼らが話していたこと。たとえば皇太子が1年半前に亡くなった王妃について話していますが、当時も今もこのような話し方をすることが許されている社会だと思います。
撮影はされていた
国王が祈るシーン
―― この映画の本筋ではないので、国王が国教会の長であるとか、宗教的な苦悩とかがあまり描かれていないのでしょうか。
ポッペ監督:ホーコン7世は非常に信仰的な方で、この映画で描いた3日の日々も祈っていたとは聞いています。だが、実際に何かの力に対して助けを求めて祈っていたという証言や証拠がなかったのです。私が想像するのは、多分彼は疲労困憊して非常に疲れていただろうということです。ただ、国王が夜中に「ガイダンスをください」と一人で祈っているシーンは撮影しました。しかし、それを本編に挿入すると、この映画の本筋から少しずれてしまう気がしましたので止めました。でも、一番の理由は、やはり証拠がなかったからです。
―― どうもありがとうございました。
【ヒトラーに屈しなかった国王】 監督:エリック・ポッペ 2016年/ノルウェー/136分/映倫:G/原題:Kongens nei 配給:アットエンタテインメント 2017年12月16日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://kings-choice-jp.com
Facebook https://www.facebook.com/thekingschoice
*AWARD*
アカデミー賞外国映画賞ノルウェー代表作品。ノルウェー・アカデミー賞(アマンダ賞)作品賞・助演男優賞(カール・マルコヴィス)・脚本賞など部門受賞。ノルウェー・カノン賞部門受賞。米国M.P.C.Eゴールデン・リール賞(外国映画部門)受賞。ミネアポリス・セントポール国際映画祭観客賞受賞。ガーデンシティ国際映画祭脚本賞受賞。エディンバラ国際映画祭観客賞ノミネート作品。