映画「新世紀、パリ・オペラ座」――舞台芸術を愛し創り出す人たちの想いと表出を捉える映像美
パリ国立オペラ座のガルニエ宮(1875年完成)とオペラ・バスティーユ(1989年完成)二つの劇場の2015~2016年シーズンの上演作品づくりを1年半かけて追ったドキュメンタリー。演目リストの作成と予算・資金集めの制作会議から始まり、監督人事の交代、演出アイディア、アーティストや現場スタッフたちの稽古とサポート、次のスター育成のためのプログラムなどオペラ座の舞台芸術の裏も表もオープンに晒されていく。ありがちな苦労話を見せられているのではない、オペラ座の舞台芸術を愛し、創り出した芸術を老若男女、貧富の差を低くしてすべての人々に伝えたいと願い、果たすべき責務を全うしようとしている人たちの姿と、彼らの目を通して表出している姿勢が心を振るわせられる。
【あらすじ】
オペラ・バスティーユ最上階の会議室。オペラ座ステファン・リスナー総監督はじめバレエ、音楽、演出関係の監督スタッフが2015-16年シーズンに上演する演目や本数、費用などを決める会議を進めている。リスナーが総監督に就任して新時代へ拓く数々のプロジェクトが決まっていく。そして、チャレンジを支える経済的基盤を確保する寄付や支援を募るため大統領はじめ政財界などの実力者や著名人ら招待客リストの作成にも気を配る。
シーズン幕開けのオペラの演目がアルノルト・シェーンベルクの未完の大作「モーゼとアロン」に決まった。コーラスのリハーサルに1年かけるという。斬新な演出プラン。なかでも金の雄牛は被り物ではなく本物の雄牛を舞台に登壇させ、コーラル隊の傍を通らせるという。候補の牛もインターネットで2頭にまで絞り込んでいる。なぜ、生きた牛なのか。演出家のロメオ・カステルッチが、予兆のように受けたインスピレーションを語り始めた。舞台設定が形になり、金の雄牛役の“イージー・ライダー”も訓練をけて“舞台稽古”に登場。音楽監督のフィリップ・ジョルダンがつぶやく、「この演出は必要なのだろうか…」
リスナーが総監督に就任してまず稼働させたのは、次世代の音楽家、スターづくりを目指す若手育成プログラム「オペラ座アカデミー」や国民教育省とともに設立した「学校とオペラの10か月」など数々のプログラムがある。ロシア生まれのバス・バリトン歌手ミハイル・ティモシェンコがオペラ座アカデミーのオーデションに合格した。彼の才能に注目したリスナーや監督たちは、ドイツで音楽活動しているミハイルをフランス語を習得させるためパリに呼び寄せる。オペラ・バスティーユの練習室でミハイルは同じ音域の実力歌手プリタ・ターフェルと出会った。ターフェルの方から「今度、いっしょに練習しよう」と気さくに声をかけれたミハイルは、感激を隠さない。
二つの大きな出来事がオペラ座の歴史に変化の結び目を作る。一つはリスナー同様に就任して間のないバレエ芸術監督バンジャマン・ミルピエが、監督を続けるか辞任するか躊躇しているらしい動向をマスコミも気づかれる雰囲気が漂っていた。リスナーは直接ミルピエと電話で話し合う。後日、ミルピエの辞任と後任にオペラ座生え抜きのエトワーレ、オレリー・デュポン就任の同時発表会見が行われた。もう一つは、パリの劇場で同時テロが起こり犠牲者が出たこと。オペラ座がいつか標的にされる可能性もある。それでもリスナーは、同時テロ事件について「芸術は続けなければいけない」と宣言する添。
【見どころ・エピソード】
見どころには事欠かないドキュメンタリーだ。教育プログラムで練習する子どもたちの表情と、サポートする女性の励ます姿の奥ゆかしさ。期待のバレリーナ、ファニー・ゴルスの舞台に出る直前の表情と踊り終わって袖にへたり込む荒々しい息遣い。オルガ・ペレチャコ(ソプラノ)、ブランドン・ヨヴァノヴィッチ(テノール)ほか豪華なアーティストたちの舞台を、進行表をチェックしながら的確な指示を飛ばすオペレータたち。緊張がほぐれる一瞬は、舞台で歌う歌手といっしょに口ずさみながら操作するほほえましさ。起こったアクシデントや様々な準備などに漂う緊張、そのなかにもどこかユーモラスな一瞬がキラキラしている。オペラ座の舞台芸術を愛している輝きや創り出すエネルギーの結集と想いが、ブロン監督の人間を愛するまなざしを通して映像に創出されていく。 【遠山清一】
監督:ジャン=ステファヌ・ブロン 2017年/フランス=スイス/111分/原題:L’Opera 配給:ギャガ 2017年12月9日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://gaga.ne.jp/parisopera/
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan/
*AWARD*
2017年:モスクワ映画祭ドキュメンタリー賞受賞。