2018年03月18日号 08面

寄稿:小岩 裕一(日本イエス・キリスト教団 横浜栄光教会牧師 同教団異端・カルト研究室長 関西聖書神学校講師 )

①入りたくて入った人は一人もいない

最初から、異端・カルト集団に入りたくて入った人は一人もいません。気がつかないうちに、いつのまにか、異端・カルト集団の中にいたのです。入信後、気がついた時に「まさか、わたしが」と驚きます。被害者の家族は「まさか、わたしの子が」と絶望の淵に落とされます。その「まさか」が自分自身や自分の家族に起こってしまうのが、異端・カルト問題です。

②オープン・キャンパスから連休までが危ない

異端・カルト集団の勧誘は、常時行っています。彼らの最大のターゲットは新入生です。高校生のためのオープン・キャンパスは、彼らにとっての絶好の勧誘のチャンスです。気軽に声をかけ、ラインやメールのアドレスを交換します。一部の大学は新入生オリエンテーションで「カルトの予防対策のパンフレット」などを配布し注意喚起を行っています。しかし、彼らは、その前に巧妙で熱心な勧誘活動を始めています。5月の連休までに、新入生と友好を深め、楽しいイベントに誘い、信頼関係を築きます。次に、夏休みの合宿、旅行、海外研修の名目で、彼らの教理を集中的に教え込み、2学期の秋には、一人前の異端・カルト信者ができあがっています。

③異端・カルト信者との身近な接触

大学構内のサークル案内の掲示板を見ていた時に、立ち話をした先輩が、異端・カルト信者だった例があります。また、高校時代の部活の尊敬していた先輩が大学入学後、異端・カルト信者になってしまい、その先輩から誘われた例がよくあります。また、高校時代の親友の友人が異端・カルト信者で、その親友も知らず、一緒に勧誘されてしまった例もあります。強引でしつこい勧誘=異端・カルトではありません。異端・カルトとの接触は身近にあります。

④個人情報、プライバシー情報を上手に聞き出す

彼らは、ライン、インスタグラム、フェイスブックなどを積極的に活用します。先輩として大学の講義内容、サークル活動、就職活動などの有益な情報を知っているので、「あなたに教えてあげる」ということです。一緒に自撮り写真を撮影し、送付するからアドレスを教えてほしいと言います。気楽に応じて、自分のアドレスを教えるぐらい問題ないと思います。しかし、彼らは、正体を隠しながら、個人情報・プライバシー情報を収集しています。この罠に引っかかってしまうと、彼らの「勧誘者リスト」に入ってしまいます。

⑤優しく、輝いて見える人たち

異端・カルトを体験した人が、異口同音に「彼らは、優しく、輝いて見えた」と言います。一つの崇高な目標に向かって熱心に生きているように見えたのです。しかし、内実は、教祖・指導者への盲信やノルマ達成のための熱心であり、心も体も疲弊しています。異端・カルト集団に数年在籍していますと、その裏が見えてきます。しかし、気がついても脱会できない状態になっています。

⑥異端・カルトの包囲網

強引に、彼らの教会、集会所に連れて行かれるわけではありません。一緒に食事をしたり遊んだり、互いの下宿を訪問しながら、友人としての友好を深めるのです。そして、その信者から次の信者を友人として紹介されます。同じ大学、学部の先輩、近隣の有名大学生、名門企業の社会人です。自分にとって安心で有益な人たちだと思います。この段階で、異端・カルトの包囲網の中に入ってしまったのです。

⑦自分たちは誤解され迫害されている

彼らに不信な点や曖昧な点を質問すると、「今はあなたには理解できないので、次の段階になれば、知ることができる」と言います。また、「自分たちの指導者や集団は社会やキリスト教会から誤解され、迫害されている」と言います。「あなたが実際に見たわたしたちのどこに問題があるのですか」と言われ、優しく、輝いて見えるので、そのとおりだと思ってしまいます。外側の情報がウソと思わせるのが、マインド・コントロールの手法です。異端ime-ji 2モザイク

⑧巧妙に正体を隠し、ウソをつく

団体名、教祖、指導者、幹部、本部などの住所を知っていれば、見分けることができるわけではありません。なぜなら、彼らは偽名を使用し、その偽名も次々と変えるからです。互いにニックネームやファーストネームを使用し、本名がわからないことがあります。住んでいる場所も曖昧なことを言います。勧誘した人たちに、自分たちの実態を知られないために、巧妙にウソをつきます。

⑨ダミーサークル、ボランティア団体を装う

サッカー、チアダンス、クラシック音楽、合唱、絵画、写真、旅行、趣味などのサークル活動を装います。部活経験者、音大生、体育大生で、プロレベルのものを提供しています。大半は異端・カルト信者ですが、信者でない人もいて、一般のサークルと思って活動している人もいます。社会人、高校生もいます。ここでは無理な勧誘活動はしません。一般のサークルと異端・カルトのダミーサークルを見分けることがむずかしくなっています。
また、異端・カルト集団は、災害や海外などのボランティア活動を盛んに行っています。そのことで社会から評価されている団体と思わせて、信頼を得ようします。
また、ホームページやブログを見て、異端・カルト集団と判断することは困難です。

⑩家族、教会の人たちに相談させない

友人、家族、大学事務局などに相談し、適切な情報を提供された人は、この段階で止めます。だから、彼らは勧誘した人が都合の悪い外部の情報に触れる前に、マインド・コントロールの支配下に入れてしまいます。それは、他の人に相談させないことです。
そして、異端・カルト集団側の情報だけが正しく、外の情報は悪意のある誹謗中傷と思わせます。「もう大人だから、親に相談する必要はない。自分で決めたらよい」と言われ、親と遮断させます。この段階で、家族や教会の牧師に「何かおかしい」と相談した人のほとんどは、脱会しています。
しかし、相談せずに、異端・カルトの信者になってしまった人の脱会は困難です。近年、異端・カルト信者になったことを家族や友人に告白しない「隠れ信者」が増えてきています。「ばれないように」することが異端・カルト側の対抗策です。

⑪個人的な「聖書」の学び

「異端・カルト集団のマインド・コントロール」は、閉鎖的な場所で、数日間の集中講義を聞かされ、最後に教祖や指導者を信じるように強要されるというイメージがあります。自分は、このような方法ではないので、彼らは異端・カルトではないと思ってしまいます。
近年は、「一緒に個人的に聖書を学んでみませんか」と誘われます。教会を休みがちなクリスチャンホームの大学生が「最近、大学内で聖書を学ぶ友人ができた」と親に伝えました。親は子どもの信仰が回復したと喜んだのですが、後になって、それが異端・カルトだったということです。その大学生も、親に伝えた時は、キリスト教と思っていたようです。
友好関係を深めながら、一対一で聖書研究を続けます。「聖書全体は比喩」「聖書の歴史は、旧約・新約・成約の三段階」「苦難を背負う神に選ばれた特別先生」などが出てくれば、異端です。

⑫注意喚起

新入生の方へ:大学に異端・カルトが侵入しているという前提で、自分は大丈夫と思わない。上記の勧誘の手口に気をつける。心配ごとがあれば、すぐに家族や教会の牧師に相談する。
家族や教会の牧師先生方へ:異端・カルト集団の実態と予防対策を伝えておく責任がある。新入生任せにしないで信頼できる教会を紹介する。心配なことは異端・カルトカウンセラーに相談する。