キリスト教と政治

本書は慶應義塾大学法学部政治学科で、3、4年生を対象とした授業をもとに構成されている。そのためか、キリスト教2千年の歴史、そして西洋社会の推移がコンパクトにまとめられている。一般的には「政治」と「宗教(キリスト教)」にカテゴライズされることが多いが、著者の視点はそこにない。この2つをコインの裏表のように捉えている。
例えば筆者は、宗教改革を引き起こしたと言われるルター、彼とは異なる働きをしたカルヴァンについて言及する。しかし単にルーテル派と長老派の誕生の経緯、それに伴う西洋社会の変化が列挙されているのではない。著者は当時の西洋社会で生きる人々の内面(宗教性)をまず描き、それが一方向に集積されることにより引き起こされた社会変化を物語る。しかし変化後の社会は恒久的ではないため、今度は教会や国家の実質的な変化が、人々の内面(キリスト教信仰)に変化を起こす様が続いて描かれる。この双方向性が「刺激」となり、新しい時代は紡ぎ出される。このように歴史は、静止することなく常に新しい局面が生み出されていく。筆者の言葉を借りるなら、「政治と宗教がいわば『自分探し』をする動態(274頁)」が出来事を生み出していくのである。
では「自分探し」の結果、読者に何が見えてくるのか。それは、政治的であると同時に宗教的である「人の生き様」である。読者は、先人たちの生き様が積み上げた「歴史」の上に自分たちが生きているという実感を持つことになる。筆者はそのような「刺激」を読者に与えようとしているのかもしれない。著者は本書を「たたき台」として「創造する意欲をかき立て」て欲しいと願っている(275頁)。ならば私もこれに応えたい。現在、出自である「ペンテコステの歴史」をまとめている。著者から与えられた「刺激」に対する一つの恩返しとなることを願う。  知的刺激を受けたい方にとっては、忘れられない1冊となるであろう。 (評・青木保憲=大阪城東福音教会牧師)

『入門講座 キリスト教と政治』田上雅徳著

慶應義塾大学出版会 2,592円税込 四六判