順風満帆なように見えるクリスティだが (C)2017 China 3D Digital Entertainment Limited

会社の仕事はチームリーダーとして順調にこなしているキャリアウーマン。プライベートでは大学時代から付き合っている恋人もいて傍目には順風満帆に見える29歳の女性。日々の暮らしは充実しているのだが、心の中にはなにか満たされない思いが大きくなっている。ある出来事で一カ月間借りすることになった部屋の女性の屈託ない生き方を知り、自分との生き方の違いに惹かれていく。アラサーの恋愛コメディと早合点しそうなタイトルだが、しっかりしたメッセージが込められていて好感が持てる作品。笑いあり、歌あり、涙ありの映画らしい醍醐味のなかに人生ステージへの真摯なエールが力をくれる感動作です。

 【あらすじ】
2005年、香港。化粧品会社に勤めるクリスティ=ラム・ヨックワン(クリッシー・チャウ)は、一か月後に30歳の誕生日を迎えるキャリアウーマン。尊敬する女性社長エレイン(エレイン・チン)のもとでの仕事にはやりがいがあり、日々充実している。長年付き合っている恋人ヨン・チーホウ(ベン・ヨン)が海外出張の間は彼の飼い猫の世話をする仲だが、“結婚”というキーワードには微妙な空気が二人の間に流れる。もう一つは、認知症の症状が現れ始めている実家の父親から「食事の用意をして待っているから早く帰ってこい」という電話が頻繁にかかってくるのが気がかりなこと。

ある日、クリスティはエレイン社長に認められて部長に昇進した。仕事に気合は入るが、想像以上の責任と忙しさは次第にストレスをためていく。父親からの電話にも徐々に受け止める余裕が失われていく。さらにマンションの壁に漏水被害が出たことで大家からは突然の退去勧告を受けた。仕事が忙しいクリスティは、しかたなく大家から紹介された部屋に一カ月だけ間借りすることにする。

間借りするアパートの借主はティンロ(ジョイス・チェン)。一カ月間パリ旅行に出かけている。なんとビデオメッセージを作り、屈託ない陽気な笑顔で自己紹介し、大好きなレスリー・チャンのレコードを抱えながら部屋を案内してくれる気安さ。壁一面に大きく描かれたエッフェル塔のスケッチには、ティンロ本人やレスリー・チャン、ティンロの幼馴染チョン・ホンミン(ベビージョン・チョイ)などたくさんの写真が張り付けられている。ティンロの笑顔と明るいキャラクターに、クリスティは顔をほころばせて見入っていく。

ティンロ(右)はいつも笑顔で夢見がち。幼馴染で親友のチョンとは何でも話し合える (C)2017 China 3D Digital Entertainment Limited

部屋の中を見ていくうちにティンロの「自伝風の日記」が置かれていた。ページをめくると、クリスティは同じ生年月日であることに不思議なシンパシーを感じていく。ティンロンは「私の得意技は、辛いことがあっても笑って乗り越える」と書いている。レコード店のアルバイトのティンロとキャリアウーマンのクリスティ。まったく異なるライフステージの二人だが、クリスティは「自伝風の日記」をとおして未だ見ぬティンロとの心のつながりを感じていく…。

【みどころ】
長年付き合っている恋人とは“結婚”にゴールできそうにない微妙な空気感。仕事に掛けようとすれば認知症が進んでいく実家の父親が気がかり。順風満帆なように見えて何かが一つひとつ剥がれていくような揺れる29歳のクリスティ。一方で、大好きなレスリー・チャンの映画「日没のパリ」の舞台エッフェル塔界隈を観に出かけている明るい笑顔のティンロ。二人の29歳のコントラストだけで終わらず、ティンロの日記に記されている驚きの展開。人生に巻かれている様々なシーンでの取捨選択。それはアラサーに限らず、どの年代であっても経験し、決断することの大切さを身に染みて共有しあえる演出が心憎い。 【遠山清一】

監督:キーレン・パン 2017年/香港/広東語/111分/原題:29+1  配給:ザジフィルムズ、ポリゴンマジック 2018年5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://29saimondai.com/
Facebook https://www.facebook.com/29saimondai/

*AWARD*
2017年:大阪アジアン映画祭観客賞受賞。セドナ国際映画祭脚本賞受賞。ニース国際映画祭監督賞受賞。香港電影金像奨7部門(監督賞・脚本賞・主演女優賞・助演女優賞・音楽賞・歌曲賞・新人監督賞)ノミネート。香港アジア映画祭クロージング上映。Yahoo! Asia Buzz Award最多検索香港映画賞受賞。香港電影評論学会大賞2017年8大推薦映画入選作品。