息子の戦死の公報と誤報に翻弄されるミハエルとダフナだが… (C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017

息子の戦死を知らされ悲嘆に暮れる夫婦だが、ほどなく届いた戦死は誤報であったという訂正と謝罪。その急展開は、戦地の息子に大きな変化をもたらした…。戦争のリアルな日常をとおして父、母、息子の三人の運命がソーシャルダンス“Foxtrot(フォックストロット)”のステップのように連なっていく。激しい戦闘シーンはないが、戦争の重たい空気感と不条理をとおして、人間と運命の絡み合いを描いていく。“戦争映画”を超えて反戦への想いを指し示す質の高いヒューマンドラマ。

【あらすじ】
第1部 ミハエル
建築家のミハエル・フェルドマン(リオール・アシュケナージー)の自宅にイスラエル軍の担当官が訪問し、息子のヨナタン(ヨナタン・シライ)の戦死を伝える。気を失う妻のダフナ(サラ・アドラー)。黙して立ち尽くしているミハエル。知らせを受けてミハエルの兄アヴィグドル(ユダ・アルマゴル)が真っ先に駆けつけてきた。ミハエルは、母親(カリン・ウゴウスキー)が入居している施設へ行きヨナタンの戦死を伝えたり、自宅で軍のラビ(イタマル・ロッチルド)から葬式の説明など受けている、再び軍の担当者が来て戦死したのは同姓同名の別人で、誤報だったという。ミハエルは怒りを顕わにして「今すぐ息子を連れ戻せ!」といきり立つ。アヴィグドルとダフナがたしなめるのも聞かず、ミハエルはコネを使ってでも連れ戻そうとする。

第2部 ヨナタン
イスラエル北部の国境付近にある補給路の検問所。ヨナタンたち4人の兵士が常駐している。昼間、ラクダだけがのんびり通っていく。夜、宿舎代わりのコンテナで休む兵士たち。一人が缶詰を床に寝かせると自然に転がり始めた。反対側まで転がり着く秒数をチェックし、毎晩1秒づつ床が沈んでいる。ある夜、男女4人の若者たちが車で検問所にやって来た。ヨナタンがサーチライトに照らす。助手席の女性と目が合う。取り調べをしている兵士が、助手席の女性のスカートの端がドアに挟まっているのを教えると、ドアを開けた拍子に車内から何かが転がり落ちた。「手りゅう弾だ!」の声を聴き銃撃する兵士たち。若者4人が射殺され、転がり落ちたのは缶詰だった。連絡を受けた上官が到着し、死体は車ごと砂漠に埋めて事件は起こらなかったことにされた。上官がヨナタンの名前を呼び、「トラックに乗れ、家に帰るんだ」と命じる。

第3部 ダフナ
ミハエルが荷物を取りに自宅に戻ってきた。ダフナはヨナタンの20歳の誕生日ケーキを飾付けている。急に現れたミハエルに「顔も観たくない」と辛く当たる。ミハエルとダフナ別居しているらしい…。

(C)Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinema – 2017

【見どころ・エピソード】
映画の原題“Foxtrot”は1910年代はじめにアメリカで流行した4分の4拍子あるいは2分の2拍子の社交ダンスステップで、“前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ”と元の場所に戻って来る。人間と運命との関係を、この社交ダンスに暗示する。検問所の暗号名でもあり、“Foxtrot”のステップを説明する兵士の踊りが際立って上手い。

イスラエルのレバノン戦争に従軍経験を持つマオズ監督。前作「レバノン」では戦車の照準スコープから覗く戦場の緊張感を描写し、本作では退屈な時間の毎日を覆う戦争の重苦しさ、不条理な情況がリアルに描かれている。イスラエルでの公開上映に際してスポーツ・文化大臣が「イスラエルにとって有害な映画である」と批判し、右翼寄りからも非難された。それでも、オフィール賞(イスラエル・アカデミー賞)作品賞・監督賞はじめ8部門を受賞、イスラエルの映画界の気概を感じさせられる。 【遠山清一】

監督・脚本:サミュエル・マオズ 2017年/イスラエル=ドイツ=フランス=スイス/ 113分/原題:Foxtrot 配給:ビターズ・エンド  2018年9月29日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.bitters.co.jp/foxtrot/
Facebook https://www.facebook.com/foxtrot.movieJP/

*AWARD*
2017年:第74回ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ(銀獅子賞)受賞。オフィール賞(イスラエル・アカデミー賞)作品賞・監督賞・主演男優賞(リオル・アシュケナージ)、撮影賞、編集賞、美術賞、サウンドトラック賞、オリジナル音楽賞8部門受賞。 2018年:第90回アカデミー賞外国映画賞イスラエル代表作品ほか多数。