インタビュー:三上智恵監督--緊急先行上映中のドキュメンタリー映画「戦場ぬ止み」
5月27日から6月5日までの予定で翁長雄志県知事が訪米。普天間基地問題は「辺野古移設が唯一の解決策」ではないという沖縄県民の〝民意〟を米国に伝える。この緊迫する情況を受けて、辺野古新基地建設に反対する人たちの現在を追ったドキュメンタリー映画「戦場ぬ止み」が7月中旬公開前の5月23日から東京・ポレポレ東中野で緊急先行上映中。時機に適ったことと喜ぶ三上智恵監督に話を聞いた。 【遠山清一】
映画「戦場ぬ止み」の紹介記事は下記リンクへ↓↓↓
https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=2180
“返還”が“代替”基地へ
95年から97年の沖縄
--日本本土の報道メディアでは、沖縄の基地問題をあまり詳しく報じられません。普天間基地移設にともなう辺野古新基地建設問題にはいつごろから取材に取り組みましたか。
三上 1997年からです。95年から97年にかけての流れを少し説明するといいかもしれませんね。
95年に米軍の黒人兵3人が小学6年生の女の子をレイプする事件が起きました。実行犯の3人は引き渡されなかったため、日米地位協定見直しや米軍基地の整理縮小を促進することなどを求めて県民総決起大会が開かれ8万4000人も集まりました。この県民大会で当時の大田昌秀知事が米軍用地の強制使用手続に関する機関委任事務を拒否すると宣言したので、その賛否を問う県レベルでの住民投票が行われました。
日米両首脳は沖縄の状況に危機感を抱き、当時の橋本龍太郎首相が普天間飛行場の返還を要求し、96年4月に全面返還で日米政府が合意したと発表したんですね。ところが、97年になって普天間基地の移設先が名護市辺野古付近に固まったと発表されたというのが95年から97年にかけての流れです。
“全面返還”するというのはウソだったんですね。私たち報道メディアは、いままで返さないと言われていた普天間基地が返還される。動かない山が動くというようなことを、メディアのみんなが伝えてしまった。いまだに、そのようなストーリーを伝え続けてしまっている不勉強なところもあるように思います。
でも、そのことが間違いだったということを、数年後に私たち沖縄のメディアは気付かされました。なぜなら、60年代から大浦湾に軍港を作ろうという計画を米軍は検討していました。95年の少女暴行事件が起こる前から、その計画が進められていたことが分かってきました。県民レベルでの住民投票が行われた97年には、普天基地の代替え基地を辺野古に造るという話でしたので、取材に入りました。
私たちメディアは、悔しいわけですよ。誤報のように…、政府があたかも沖縄のために考えてくれたのが普天間基地の返還であったかのように、いまだに国民が信じている情況を悔しく思います。(返還なら)辺野古に新たな基地を造ってはいけないし、代替え基地なんて要らないんだと思っているわけですから。
辺野古と高江とは
表裏一体の問題
--前作「標的の村」に登場する東村高江のゲンさんの家族がキャンプ・シュワーブに応援に来るシーンがあります。沖縄の人たちが、それぞれの生活の場で問題を共有して“つながり”っているという部分は、本作でも伝えたかったことの一つですか。
三上 はい、もちろんそうです。
前作「標的の村」で高江で起きていることを知ってもらうことが出来た人たちが、あの作品だけを観ても辺野古で起きていることは分からないですよね。でも高江と辺野古は、表裏一体の問題なんですよ。
先ほどの95年の事件を受けて、(2002年をめどに)北部訓練場の過半を返還するというSACO(日米特別行動委員会)合意がまとまりました。だが、その代わり高江に6つのヘリパッドを造るという計画なんです。「返還するかわりに新たに造る」と言われると、その時点で騙されてしまいますが、要はオスプレイの訓練のために北部訓練場の使っていない所を返すというだけの話。しかも、日本のお金で造るという…。
キャンプ・シュワーブや辺野古など大浦湾に面した軍港付の新基地を造りオスプレイ100機を配備して訓練するからこそ高江のヘリパッドも活かされる。だが、辺野古に新基地が計画通り進まず、沖縄は訓練に使いにくいとなれば、高江に造られようとしているヘリパッドにオスプレイも海兵隊の部隊もたまに訓練にたまに訓練する程度になるかもしれない。ですから、高江と辺野古新基地のことは全く一緒の問題なんです。
20年~25年のスパンで次の世代が
闘わなければならない沖縄の情況
--本作で、キャンプ・シュワーブのゲート前に乳飲み子を抱いて応援に来た若い夫婦を、ヒロジさんが受け入れながらも危険でない場所を指示しているシーンがありましたね。本土の感覚では座り込みするような所に幼児と一緒に来るという感覚は理解しにくいかもしれません。
三上 大浦湾の北側に住む渡具知さんの家族も出ていますが、ご両親は長男の武龍くんがお母さんのお腹の中にいるときから住民運動に参加して座り込んできました。20年来、渡具知さんの家族の在り様を観てきましたが、「この子を守るために自分たちが頑張るしかない」と言って、武龍くんを抱いて市役所やビラ配りにどこへでも行ったけですよ。
そういう場所に子どもたちを連れて行って反対運動することに批判的な声はあるでしょうし、彼らも直接耳にしてきたと思います。それでも「いま終わらせたらこの子たちの未来を守ることができる」と思って、お父さんお母さんたちは赤ちゃん抱いて頑張るわけです。本気で、終わるのが当たり前だと思っているから、遊びたい盛りの子ども連れて行ってでも反対しています。別に、反対運動しているのを見せたくってやっているわけではないんです。だから、子どもたちもやっぱり引き受けてしまうわけですよね。この選挙に勝てばとか、その時その時を全力投球でやっていくしかないわけですよ。だって、(黙って見過ごせば)故郷に住めなくなっちゃうわけですから。
恩納村から応援に来ている澄江さんと寿里ちゃん母子も、ご両親は実弾訓練施設の建設に反対して2歳だった寿里ちゃんを抱えて反対運動に参加していました。恩納村の実弾訓練施設は半分くらいで来ていたけれど、1989年に解体撤去されました。座り込みするだけで勝てるのかという声はあるでしょうが、9つ負けて1つしか勝てないかもしれませんが、勝った事実はいくつもあるのです。恩納村の人たちとお父さんが頑張って闘った姿を寿里ちゃんも見ていた。そして21歳の時からお母さんと一緒に高江に応援に行き、辺野古でカヌーに乗って反対運動している。
ですから、1989年と今、1995年と今では、両親の世代から子どもの世代へ闘う世代が変わりつつあるわけです。闘わなければいけない不幸な情況が、日本とアメリカと沖縄にはすごく複雑な関係がある。戦後70年と今、という視点ではなくて、20年~25年というスパンで次の世代へ丸投げされてしまっているという現実を感じとっていただけたらと思います。
--ありがとうございました。
監督:三上智恵 2015年/日本/129分/ドキュメンタリー 配給:東風 2015年5月23日(土)より東京・ポレポレ東中野にて緊急先行上映中。7月11日(土)より沖縄・桜坂劇場、18日(土)より東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開。
公式サイト:http://ikusaba.com/
Facebook:https://www.facebook.com/ikusaba.movie
**辺野古新基地建設を巡る緊迫する情勢を受けて、下記の劇場での緊急先行上映が決定されている。
<東京>ポレポレ東中野:緊急先行上映中。 http://www.mmjp.or.jp/pole2/
<札幌>シアターキノ:6月20日(土)に緊急先行上映。本上映は8月8日(土)より。 http://theaterkino.net/pdf/okinawa.pdf
<大阪>第七藝術劇場:6月19日(金)に関西特別先行上映(三上智恵監督トークショー予定あり)。本上映は7月18日(土)より。 http://www.nanagei.com/movie/data/969.html
<沖縄>桜坂劇場:6月21日(日)に完成披露先行上映(三上智恵監督の舞台あいさつ予定あり)。本上映は7月11日(土)より。 http://www.sakura-zaka.com/movie/1507/1507_ikusaba.html