映画「戦場ぬ止み」--普天間基地“移設”の欺瞞性と沖縄の決意を問うドキュメンタリー
“「日本人」が知っている「基地問題」は虚像かも知れない――。”
フライヤーに記されているこの問いかけが、本土の報道メディアでは知らされない沖縄でいま何が起きていることに注意を喚起される。辺野古での基地建設はいつごろから検討されていたのだろうか。政府が言うように、普天間基地の移設問題は辺野古への新基地建設しか解決策はないのか…。沖縄戦を生き抜いてきた人たちの想いは、「そうじゃない」という一つの声になりつつある。「沖縄にはもう基地は要らない」と基地建設反対の意思を示す人たちの日々をとおして、普天間基地“移設”の欺瞞性を見つめ、沖縄の決意を「日本人」とアメリカや世界に問うドキュメンタリー。
沖縄。名護市の辺野古岬。1Kmほど続くリーフは引き潮になると住民が歩きながらタコや貝を採ってきた。東側の大浦湾にはジュゴンが泳ぎ、絶滅危惧種のアオサンゴが群生し、60m余の海底谷へと深まっていく。その辺野古岬の海が、オスプレイ100機を配備可能な新基地建設のため大型ダンプカー350万台分の土砂で埋め立てられようとしている。アーティストCocoのナレーションが、現在進行形の辺野古の“いま”を語る。
辺野古岬に近いキャンプ・シュワーブのメインゲート前。県内での新基地建設に反対する住民らが座り込み、埋立機材の搬入を防ぐため毎日監視している。リーダーはヒロジさん。沖縄が“悪魔の島”呼ばわりされた沖縄戦争当時から反戦・反基地のため非暴力の市民行動を続けている。トッラクヤトレーラがやってくると、車の前に身を投じてストップさせる。防御・排除しようとする沖縄県警や機動隊員らともみ合う。その中には、沖縄戦の時、豪の中で手りゅう弾や火炎放射器の炎に焼かれても生き続けてきた文子おばぁもいる。毎週土曜日になると大浦湾の北側から渡具知さんの家族がキャンプ・シュワブにやってくる。フェンスにピース・キャンドルを灯し、行き交う車に「大浦湾を守ろう」と書いたメッセージボードを掲げて見せる。
2014年8月14日、工事海域の囲い込みが始まった。辺野古の海に遊覧ボート規模の抗議船4隻とカヌー20艘が反対の示威行動のために集まる。その防御のため防衛局と海上保安庁は25ミリ機関砲を装備した艦船はじめ80隻の以上の船を配備しした。恩納村から反対運動にやってきた澄江さんと寿里ちゃん母子や住民には「まるでアメリカ軍が来た時の戦場のようだ」と、その威圧感を語る。
沖縄県知事選挙が始まった。辺野古新基地建設を容認するか、反対かが最大の争点だ。だが、単純に賛成か反対かでは真意を測ることはできない。工事開始前から漁協や漁師個人の口座に補償金が振り込まれ、真意を語れなくされた人たちもいる。反対運動は嫌いだが、大浦湾を守りたい気持ちは同じだという漁師もいる。
キャンプ・シュワブのフェンスに一首の琉歌が掲げられた。「今年しむ月(ぢち)や 戦場(いくさば)ぬ止(とぃどぅ)み 沖縄(うちなー)ぬ思い 世界(しけ)に語ら」(大意:今年の11月の県知事選挙は、私たちのこの闘いに終止符を打つ時だ! その決意を日本中に、世界中に語ろう)。選挙の投票日が刻々と近づいてくる…。
2年前、東村高江に6か所のオスプレイ訓練用ヘリパッド建設に反対する人たちのドキュメンタリー「標的の村」を撮った三上監督。本作でも、アメリカ統治時代から辺野古住民が米軍とどのように交渉し、住民として主張しながら生き抜いてきたか、沖縄の歩みの一端が語られる。文子おばぁや住民投票を求め危険な射撃訓練場などの建設に反対してきた人々の思い。基地を容認しつつも沖縄の海と自然を愛する思いは一つの人々の生き様と思いをとおして基地問題の現実を追っていく。
米軍は曲がりなりにも“民主主義”を守る軍隊であり、沖縄に駐留している生活者でもある。民主主義を標榜するが、補償金と補償格差で住民を分断し強権発動する政府の沖縄政策が浮かび上がってくる。沖縄県知事選挙と総選挙に現わされた“沖縄の民意”を観るとき、他人事ではなく「日本人」の民主主義への不断の決意を感じさせてくれるドキュメンタリーだ。 【遠山清一】
監督:三上智恵 2015年/日本/129分/ドキュメンタリー 配給:東風 2015年5月23日(土)より東京・ポレポレ東中野にて緊急先行上映中。7月11日(土)より沖縄・桜坂劇場、18日(土)より東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開。
公式サイト http://ikusaba.com/
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◆三上智恵監督インタビュー記事 ⇒ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=2184