相談者のさまざまな願望を聞き、理不尽な課題を告げて願望の達成を約束する謎の男 (C)2017 Medusa Film SpA .

患っている病や身体の不具が治ってほしい。あの人と仲良しになりたい…など、心の願いが強い欲求に高まるとき欲望への扉が開かれていく。他人を不幸へ陥れる犯罪的行為を実行してでも欲望と化した願望を遂げたい。人間はどこまでその欲望を抑えられるのか、あるいは欲望を追求していく存在なのだろうか。ほのかな願いを手に入れる代償に理不尽な犯罪的行為を提示し、罪への一歩に背中を押す謎の男。街角のカフェという人々が憩う場所を舞台に、人間の心の隙に入り込む罪への誘いを描き出していく。

願望を叶える謎の男を
訪れる9人の依頼者たち

ローマのとある街角。小さなカフェ「ザ・プレイス」の奥まったテーブルに一日中座っている謎の男(ヴァレリオ・マスタンドレア)。彼は閉店後もいつものテーブルに座ったまま、疲れた表情で分厚いノートをチェックしながらもの思いに耽っている。

謎の男の所には、ひっきりなしに相談者が訪れる。相談者は、自分の願いを謎の男に打ち明ける。男は、話しを聞きながら分厚いノートに要点を記録していく。そして、その願望を叶えるための課題を伝える。実行するかどうかは相談者の意思次第だ。だが、課題は理不尽な内容で、課題の実行プロセスを詳細に報告することが契約の条件。

刑事のエレット(マルコ・ジャリーニ)は、「放蕩息子を立ち直らせたい」と相談してきた。それを叶えるための課題は「女性からの被害届をもみ消せ」と事件の隠ぺいを要求する。相談の内容と課題には何の関係性もない。

老婦人のマルチェラ(ジュリア・ラッツァリーニ)が、手作り爆弾の進捗を報告しに来た。彼女は「アルツハイマーの夫を治したい」と願って相談に来たのだが、彼女への課題は「大勢の人が集まるところへ爆弾を仕掛けろ」という理不尽なもの。躊躇しながらも夫人は爆弾づくりを始めている。

(C)2017 Medusa Film SpA .

「癌に罹った息子を救いたい」と相談してきたルイージ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)への課題は誰でもいいから「少女を殺せ」。

修道女キアラ(アルバ・ロルヴァケル)は、かつて感じていたように「神の存在を感じたい」という願い。謎の男は「妊娠すること」を課題として告げる。

幸せになるため「美人になりたい」と願うマルティーナ(シルヴィア・ダミーコ)には、「強盗をして10万ユーロと5セント稼げ」と告げる。彼女は、共犯者に恋人のアレックス(シルヴィオ・ムッチーノ)を選び謎の男に紹介する。アレックスは、理不尽な課題を告げる男を訝し気に思うが、彼自身「父親から自由になりたい」と願っていることを相談すると謎の男は「恋人の強盗を手伝え」と告げる。

グラビアページに載っているピンナップガールのページを示して「彼女と関係を持ちたい」と相談してきたオドアクレ(ロッコ・パパレオ)。ピンナップガールと結婚したいわけではない、ただ仲良くなってセックス出来ればいい。謎の男が告げた課題は「見知らぬ少女を護れ」。

最近自分に無関心な「夫の関心を引きたい」と相談に来たアッズッラ(ヴィットリア・プッチーニ)には「別のカップルを破局させろ」と告げ、「視力を取り戻したい」と願っている盲人のフルヴィオ(アレッサンドロ・ボルギ)への課題は「女を犯せ」という難題。

謎の男は、課題を告げ、実行を約束した者たちの報告や相談を詳細に聞き取り、分厚いノートに書き込み、課題を実行し願望を果たした案件のメモは切り取って書き捨てる。そんな謎の男の様子を見ているカフェの店員アンジェラ(サブリーナ・フェリッリ)は、男に話しかけるが彼は自分のことは何も語らない。ただ疲れた表情で「眠れない」とだけ吐露する。だが、ある日、少女を護って願望を果たしたオドアクレが、助けた少女がまた襲われるのではないかと危惧し、少女を狙っている男を襲いたいと謎の男に告げに来た。オドアクレは知らないことだが、護った少女を狙ったのは癌の息子を助けたいと願っているルイージだった。謎の男に相談しに来ていた者たちの願望と課題が、複雑に交差し絡み合っていく…。

相談者が課題を実行し願望が適うと、メモを焼き捨てる謎の男 (C)2017 Medusa Film SpA .

謎の男の存在は
何を語っているのか

謎の男から課題を告げられた人たちの思いは、躊躇し、達成したとしても悲喜こもごもだ。理不尽で犯罪的行為を課題として告げる男はすべてが謎の存在。なぜ、カフェ「ザ・プレイス」にいるのか。誰の紹介で相談者たちは男のもとにやって来るのか。誰に命じられている役目なのか。何一つ語られない。それだけに相談者たちの心の動きや報告される詳細な顛末が、観る者はさまざまな観想を示してくる。謎の男の存在はサタンのようにも見えるが、疲れた表情からは逃れたい役目のようでもある。ラストシーンのカフェ「ザ・プレイス」の情景には、願望を猛追する人間の心の弱さと罪からの解放を希求する呻きが静かに聴こえてくるようで印象深い。 【遠山清一】

監督:パオロ・ジェノヴェーゼ 2017年/イタリア/101分/映倫:G/原題:The Place 配給:ミモザフィルム 2019年4月5日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://theplace-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/映画ザプレイス-運命の交差点-142395676662149/

*AWARD*
2018年:ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞監督賞・脚色賞・主演男優賞・助演女優賞・撮影賞・編集賞・ヤングダヴィッド賞ノミネート。