不登校、引きこもり、家庭内暴力など、様々な困難を抱えて生きる若者たちの自立支援の働きを30年以上にわたって続けてきたK2インターナショナルグループ(K2、金森克雄代表)が、昨年11月に出版した『生きづらさを抱える若者たちと〜共に暮らし共に生きる若者支援のリアル〜』(小林献著/K2編、いのちのことば社)の出版記念セミナーを3月9日、神奈川県横浜市内で開催した。学生伝道、地域教会の場で若者支援に取り組む、大嶋重徳氏(キリスト者学生会[KGK]総主事)、池田恵賜氏(JECA・本郷台キリスト教会主任牧師)が、K2の現場で若者と関わる坂本牧裕氏(ジャパニーズゴスペルチャーチ[JGC]主任牧師)とともに、トークセッションを行った。

K2の働きは、代表の金森氏が一人の引きこもりの若者とともにヨットでミクロネシアに航海したことに始まる。寝食をともにし、一緒に働くことを通して若者は立ち直っていく。その経験からヨットによる教育事業で、生きづらさを抱えた若者たちを太平洋の航海に連れ出した。若者支援事業は海外にも広がり、横浜には共同生活の寮が出来、就労経験の場として飲食店を横浜市内および海外にも開店するなど、多彩な働きが展開されている。今回出版された著書では、多くの一般メディアでも取り上げられたその活動が、歴史的な経緯も踏まえ、キリスト教の視点から紹介されている。
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セッションの冒頭で、金森氏が挨拶。「活動を始めた頃、クリスチャンは私たち夫婦しかいなかった。“偏向教育”との批判を受けないように、教会の話をすることはなかったが、いろいろな会合で出会った人たちにはクリスチャンが多かった。途中から若者たちにも教会を勧めるようになり、救われる子が出てきた。メンバーだけでなく、気がついたらスタッフも主だった者はほとんどがクリスチャン。ある時からはっきりとキリスト教主義であることを打ち出した。でも、もちろん信仰の有無は問題にしない。他の宗教の人もいる。クリスチャンが集まってこの働きを始めたわけではないが、その中にクリスチャンが少なからずおり、活動する中でクリスチャンになる者が増えていった。メンバーからスタッフになり、坂本氏のように牧師になった者もいる。18年前にJGCが出来、宗教法人も取得した。そういう歩みの中で今がある」
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セッションでは各氏が自由に発言。
大嶋「K2から生まれたJGCは“ちゃんとしていない”教会。そのことにほっとする。今の学生はみんなまじめで、ちゃんとしている。しかし罪人である人間は、本来“ちゃんと”などできない。そのできないもどかしさを内側に溜め込んで、彼らはその悶々としたものを爆発させ自分の心を傷つけていく。彼らが居られる場所が必要」
池田「K2の働きは、“オーダーメイド”の支援。一人ひとりと本気で向き合わないと、この言葉は言えない。境遇や家庭環境などを知った上で支援体制が作られている。相談窓口、生活支援、就職支援がそろっている。完成形だと思う」
坂本 「オーダーメイドの支援は、正直に言って、面倒な働き。でも、家庭の中なら普通に行われていることだろう。イエス様も、そこに集まる人に一生懸命に関わり、その人に必要なメッセージを語った。その姿をK2は見本にしている」
池田「教会にも困難な子は多く、フリースクールや作業所などはすべてがその受け皿。その必要を日本の教会も認識し始めている。それをネットワークで結べないか。K2がその中心になればいい」
大嶋「教会は『引きこもりのあの子の役に立ちたい』と思っているはず。しかし、『お祈りしているね』の先にどうしていいのか分からない。牧師にも出来ないことはあって、そこを支えてくれるのが、支援のプロであるK2」
坂本「教会が何をしたらいいのかわからず、手をこまねいているのなら、そこに僕は行きます。聖書の中には、中風の人を半ば無理やり連れてくる話がある。教会も相手に一歩踏み込むことが必要」
池田「教会が壁を作っているなら、それを壊して出て行かなければいけない。牧師にはできないことがあるというのは、そのとおり。できないことは誰かに助けてもらうように神様は作られている。その弱さを認める強さを持ちたい。牧師が信徒を信頼していくと、そこから外に出て行くきっかけができる。そのとき、K2のようなプロ集団がいるのは心強い」
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最後は参加者からも意見や質問があり、「生きづらさを抱える若者」のタイトルにもかかわらず、終始明るく、笑いにあふれたセッションだった。