バレエ学校に正式編入が決定し必死にバレリーナをめざすララ(中央)だが… (C)Menuet 2018

バレリーナをめざす15歳のトランスジェンダー少女の視線をとおして、夢を追う生き方へ踏み出した誰しもが味わう厳しさと身体的性別と自己の性自認に悩む苦痛を描いている。性転換手術を受けられない未成年の物語なだけに、自分の意志だけでは実現できない現実、男子としての身体に毎日施す処理との葛藤がなんとも痛々しい。

【あらすじ】

プロのバレリーナをめざして国内有数のバレエ学校の編入試験結果を待つ15歳のララ(ビクトール・ポルスター)は、生まれたままの身体的性別は男子だが自分の性認識は女の子のトランスジェンダー。同席しているシングルファーザーのマティアス(アリエ・ワルトアルテ)は、学校でいじめられてきたララの心情も、バレエへの情熱も十分理解しバレエ学校への転校を転職・転居覚悟で全面的に応援している。ララも6歳の弟ミロ(オリバー・ボダル)の面倒を見ながら家事もこなしながら父の期待に応えたいと頑張ってきた。学校の応えは、8週間の試験期間を観て最終結論を出すという。

ララは続けてチャレンジできることに喜んだ。だが、身体的には大きな負荷をかけている。性別適合手術を受けられるのは18歳からだ。それまでは、定期的に男性としての二次性徴を抑える治療を受けている。レッスン中は股間をテーピングできつく抑え、クラスの女の子たちとはいっしょにシャワー浴びることもない。必死にレッスンに取り組んだ甲斐あって、学校から正式に編入が認められたのを受けて、女性らしくなるためのホルモン療法も開始した。

幼少期からポワント(トゥシューズでつま先たちする基本動作)を訓練してきた少女たちとは、レッスンを初めて短期間のララとではテクニカルの面では大きな開きがある。教師の個人レッスンを受けて効果が現れてきたララだが、身体の成長期を心配しホルモン療法を高めたいと望むが、医師は許可しない。周囲の好奇な視線や思うような練習成果が得られないため焦っていくララ。その変化を観て心配するマティアスにも「大丈夫」というだけで、真摯に対話することを拒否してしまう。心身のアンバランスが崩れていくララは、ついに初舞台のリハーサル中に倒れてしまう…。

父親のマティアスはトランスジェンダーのララを深く理解し、自分らしい生き方にチャレンジできるよう全面的に応援している (C)Menuet 2018

【見どころ・エピソード】

ルーカス・ドン監督は、映画学校の学生時代に実在するトランスジェンダーの少女ノラ・モンスクールがバレリーナをめざしている新聞記事に触れたことで、この物語の映画化を温めてきたという。だが、ララ役を得たビクトール・ポルスターはシスジェンダー(身体的性別と自己の性自認が一致している人)としてバレエダンサーをめざしている少年で本作が初演技。バレエのレッスンシーンがふんだんに描かれていて、美しい演出になっているのも、身体的苦痛が重く痛々しくリアルに伝わってくる。その重苦しさに潰されず、ショッキングな顛末であるのにどこか希望を感じさせてくれるのは、父子の家族愛、バレエへの情熱が真摯に描かれているからなのだろう。 【遠山清一】

監督・脚本:ルーカス・ドン 2018年/ベルギー/フランス語、フラマン語/105分/映倫:PG12/原題:Girl 配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES 2019年7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国公開。
公式サイト http://girl-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/Girl.movie0705/

*AWARD*
2018年:第71回 カンヌ国際映画祭「ある視点」部門カメラドール(新人監督賞)・最優秀演技賞・国際評論家連盟賞受賞。 2019年:第91回アカデミー賞外国語映画賞ベルギー代表作品。第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート作品。その他多数。