隣りがの庭に木の影が気障りで妻エイビョルグは気が滅入るトラブルに巻き込まれていく… 2017 (C) Netop Filmes. Profile Pictures. Madants

北極圏に近い島国・アイスランド。国名とは異なり暖流と火山帯の地熱効果で冬でも意外と温暖で、春から夏の白夜(真夜中でも薄明もしくは太陽が沈まない)や反対に冬至の時季には極夜(日中でも薄明か、太陽が沈んだ状態)でオーロラツアーを愉しめることで知られる。お国柄、日中の日光浴は貴重で、庭のウッドデッキにお隣の大木が影が落とすことから起こったささいないざこざが笑うに笑えない事態へと発展していく悲喜劇。日本でも起こりそうな身近なきっかけなだけに、対立ではなく和合をめざす暮らし方への警鐘を感じさせられる。

発端は気に障る隣家の木の影

アイスランドの都市マンションで暮らしていたアトリ(ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン)とアグネス(ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル)の夫婦生活は、ある日突然崩壊の危機に陥る。アトリが、パソコンに保存していた元恋人とのセックスビデオを自宅で密かにみているところをアグネスに目撃された。不倫の動画と思ったアグネスに、付き合っていた時の動画で不倫ではないと言い訳するがいっそうアグネスの逆鱗に触れ「今すぐ出て行って」と追い出されてしまう。しかもアグネスは、4歳の一人娘が通う幼稚園には親権は自分だけなので夫に娘を合わせないようにと手回しよく通告し、騒動は大きくなっていく。

アトリは、とりあえず郊外に住む両親の家に転がり込む。だが、母インガ(エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル)と父バルドウィン(シグルズール・シーグルヨンソン)も、隣家の中年夫婦コンラウズ(ソウルステイン・バックマン)、妻エイビョルグ(セルマ・ビヨルンズドッテル)と小さな諍いを抱えていた。両親の裏庭にある大きな木の影が、隣家のウッドデッキへの日差しを遮り日光浴を楽しみにしているエイビョルグを困らせていた。コンラウズから幾度となく穏やかに対処を求められていたバルドウィンは、庭師を呼んで木の手入れをしようとしたが、その木には曰く思い入れのあるインガは「あの木には触らせない」と頑として聞き入れない。挙句には、エイビョルグが飼っている犬の糞を彼女に投げつけてしまう。

2017 (C) Netop Filmes. Profile Pictures. Madants

翌日、バルドウィンが外出しようとすると車のタイヤが4輪ともパンクさせられていた。誰の仕業かは不明だが、インガは隣の仕業だと断定する。いっそう激しくいがみ合っていく様相。エイビョルグは庭木が荒らされているのに気づいて隣りへの不信感を募らせる。インガたちは、防犯カメラを取り付けて隣家を監視し始めた。そしてある日、インガのペットの猫が忽然と姿を消した。アトリと両親は、防犯カメラをチェックしたが怪しい人影は写っていない。だが、チェーンソーで木を切断されるのではないかと疑いを強くしているインガは、信じがたい行動でエイビョルグとコンラウズへの怒りをぶつける…。

和合を求めない心の陰

一度火が付いた疑心暗鬼の種火は、疑いと怒りを増幅させていき遂には取り返しのつかない事態を招く。そのプロセスがなんとも切実で笑うに笑えない。聖書の箴言には、人間の知恵と心理を賢へと導く多くの言葉が記されているが、その一つ箴言13章10節の言葉を想い起させられる。「高ぶりは、ただ争いを生じ、知恵は勧告を聞く者とともにある。」 【遠山清一】

監督・脚本:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン 2017年/アイスランド=デンマーク=ポーランド=ドイツ/アイスランド語/89分/原題:UNDIR TRÉNU、英題:Under the Tree 配給:ブロードウェイ 2019年7月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト https://rinjin-movie.net-broadway.com

*AWARD*
2018年:第90回アカデミー賞外国語映画賞アイスランド代表作品。第20回エッダ賞(アイスランド・アカデミー賞)作品賞・監督賞・脚本賞・男優賞・女優賞・助演女優賞・視覚効果賞の7部門受賞。 2017年:ベネチア国際映画祭2017 Orizzonti部門出品。ファンタスティック・フェスト2017監督賞長編コメディー部門受賞。 デンバー映画祭2017出品クシシュトフ・キェシロフスキ賞(最優秀作品賞)受賞。トロント国際映画祭2017 CONTEMPORARY WORLD CINEMA部門出品ほか多数。