裁判の判決に臨む東条英機元内閣総理大臣 (C)講談社2018

戦後74年目の8月15日が近づいている。日独伊三国同盟を中心とした枢軸国陣営と英米ソなど連合国陣営との間で戦われた全世界的規模の第二次世界大戦で、敗戦国・日本の指導者らを連合国が“戦争犯罪人”(A級戦犯)として告訴した極東国際軍事裁判(通称「東京裁判」1946年[昭和26]5月3日開廷~48年11月12日判決言い渡し)を記録した小林正樹監督のドキュメンタリー映画「東京裁判」(1983年[昭和58]初公開)が、貴重なフィルムを4Kスキャンし音響もチェックした2K修復したデジタルリマスター版となって公開される。73年(昭和48)にアメリカが情報公開した50万フィートの記録映像を基に修復されたクリアな映像とナレーションなどの音響は、満州事変から太平洋戦争へと展開していった敗戦国・日本の為政者代表を裁く戦勝国連合軍による法の名のもとに行なわれた“昭和の戦争”の実態を検証する緊迫した臨場感を再現している。

中立国の判事なき国際軍事裁判
裁判管轄権の有無不明確な公判

無条件降伏を求めるポツダム宣言を黙殺する日本に投下された広島・長崎への原子爆弾。天皇の終戦の詔勅を国民に伝える玉音放送。連合軍最高司令官D・マッカーサー元帥の日本上陸と「戦争犯罪人の処罰」を実行するため、当時の日本の指導者から28人の戦争犯罪容疑者の指定など冒頭40分ほどをかけての丁寧な終戦情況についで、5月3日の東京裁判開廷へと展開する。

A級戦犯容疑者ととして起訴された28人は、全員、敗戦国・日本の為政者・軍人たち。満州事変(1931年:昭和6)から大東亜戦争(支那事変:37年~太平洋戦争:41―45年)へ導いた共同謀議、国際法違反などの「平和に対する罪」や「殺人の罪」「通例の戦争犯罪及び人道に対する罪」など55項目の罪状で告訴された。ナチス・ドイツ同様に、侵略戦争によってアジアの占領をめざす共同謀議の首謀した被告たちとされたのだが、国際軍事裁判に被告として召喚されて初めて顔を合わせた者たちもいた。

極東国際軍事裁判の裁判官席(後段)と法廷事務官席。裁判官席中央がウィリアム・ウェッブ裁判長 (C)講談社2018

また、裁判官は連合国を代表する11か国の判事たちによって構成され中立国からの判事はいない。日米の弁護団は、国家間の戦争に対して敗戦国・日本の為政者・軍人個々人を「平和に対する罪」「人道に対する罪」という法律上戦争犯罪の範囲外の要件で起訴することは違法であることを訴え、国際軍事法廷に対して裁判管轄権が無いと異議を申し立てた。しかし、裁判長は回答先延ばしのまま公判を進めていく…。

“侵略戦争”“A級戦犯合祀”など現在も国際
問題の起因を見つめるドキュメンタリー

本作は、1983年(昭和58)の初公開以来、幾度となくリバイバル上映されてきた。現在でも東京裁判の公判記録は日本語では容易に読めない情況にあり、戦争の実態と責任を追及しようとするプロセスを知ることができる第一級の資料としての価値は失われていない。

東京裁判の被告28人は、公判中に発狂免訴された大川周明、病死した長野修身、松岡洋右をのぞき、判決は絞首刑7名(板垣征四郎、木村兵太郎、東條英機、土肥原賢二、広田弘毅、松井石根、武藤章)ほか18名に終身刑・有期刑が宣告された。日本は1951年(昭和26)にサンフランシスコ平和条約調印に際して東京裁判を受諾していることもあって、日本の“侵略戦争”を指導した“A級戦犯”を合祀している靖国神社問題など今日の国際問題にもつながっている。開廷当初から天皇を含めての被告の選定や真珠湾攻撃、南京事件などが訴因にされている一方で、東京大空襲や原爆投下などは却下されているなど裁判の公平性や争点を詳らかにしている本作は、“昭和の戦争”の実態と戦後の転換点を見つめ続けているドキュメンタリーとして、東京裁判は何を裁いたのかを今も問いかけている。【遠山清一】

監督:小林正樹 1983年/日本/277分/4Kデジタルリマスター版/ドキュメンタリー 配給:太秦 2019年8月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。(日本初公開は1983年6月4日)
公式サイト http://www.tokyosaiban2019.com
Twitter https://twitter.com/tokyosaiban2019

*AWARD*
1985年:ベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞受賞。ロンドン国際映画祭招待作品作品賞受賞。シドニー国際映画祭招待作品作品賞受賞。モントリオール映画祭招待作品評論家協会賞受賞。 1983年:第26回ブルーリボン賞最優秀作品賞受賞。第12回日本映画ペンクラブ賞日本映画第1位。第38回毎日映画コンクール日本映画優秀作品賞受賞。 その他多数。