映画「ディリリとパリの時間旅行」ーーベル・エポックのパリで混血少女が追求する自由・平等・博愛
ミッシェル・オスロ監督がコンピュータグラフィックを活用した美しいアニメーションでベル・エポックのパリにタイムトリップを愉しませてくれる作品。1900年のパリ万国博覧会を時代設定に、フランス領ニューカレドニアから来たフランス人との混血少女が誘拐事件に巻き込まれていくなかで芳醇な芸術文化と科学の未来に信頼する時代の光と影を浮き彫りにしていく。混血少女自身の存在と直面する誘拐事件は、フランス国旗に象徴されている“自由・平等・博愛”の意味を現代の観客に語り掛けている。
豪華絢爛なパリと100人を
超える著名人たちも登場
1900年のパリ。ニューカレドニアからパリ行きの船に忍び込み、乗客の伯爵夫人の助けを受けてパリにやって来た混血少女のディリリ(フランス語版の声:プリュネル・シャルル=アンブロン、日本語版お声:新津ちせ)は、「人間動物園」の一つ“カナック村”で見物客たちに先住民の原始的な生活を演じてきた。ディリリは、パリ・コミューンに参画して投獄された後ニューカレドニアへ追放された女性教師ルイーズ・ミッシェルからフランス語で教育を受けていたことから言葉には困らなかった。パリに来て初めてのバカンスを迎えたディリリは、公園で配達人オレル(フランス語版の声:エンゾ・ラツィト、日本語版の声:斎藤 工)と知り合う。「いままで自分は存分に観察されてきたのだから、これからはパリの人たちを観察したい」というディリリの願いをオレルは快諾、オレル荷物運びに使っている三輪車でいっしょに楽しむ約束をする。
そのころパリでは“男性支配団”による少女誘拐事件が頻発していた。ディリリも怪しげな男に目をつけられたが、オレルが戻って来て難を逃れた。自分の身にも及んだ少女誘拐に憤激し、なんとか少女たちを助け出さなければと決意するディリリ。それ以来、オレルはディリリの傍を離れずに行動し、パリの著名人たちを次々訪ねては“男性支配団”について聴いて回る。
パリはもちろんニューヨークやロンドンでも定期公演に出演しているオペラ歌手エマ・カルヴェ(フランス語版の声:ナタリー・デセイ)はなにかと必要な時に手を差し伸べてくれる。水辺で絵を描くモネとルノワール。モンマルトルの芸術家や文学者、俳優、画商らが活動の拠点にしていた洗濯船ではパブロ・ピカソやアンリ・マティス、アンリ・ルソーらとも出会い情報収集するディリリ。彼女は出会った人たちの名前や情報を細目にメモしていく。
ある日、アドワード7世や舞台女優サラ・ベルナールがひいきにしている宝石店を“男性支配団”が強盗する計画を知ったでディリリとアレンは、その計画を阻止する大活躍を見せる。そのニュースがディリリを講じるたちの顔写真入りで報じられ、ディリリは“男性支配団”の少女誘拐のターゲットになり、エマ・カルヴェのお抱え運転手ルブフはそそのかされてディリリ誘拐に協力してしまう…。
国民皆教育の進展と
男女同権への黎明
この物語は、ベル・エポック時代のパリのモードが美しく描かれ著名な芸術家、文学者、思想家から芸能人らなど100人以上の著名人が登場する。ロダンのアトリエと地獄門も“男性支配団”の
事件の舞台の一つとして登場する。
この“男性支配団”の名称と少女誘拐の理由も、この物語の一つの重要な柱。1881年にフランスはジュール・フェリー法の施行によって国民皆教育を制度化し、女子にも初等教育が義務付けられ成績優秀な女子生徒は庶民の出自であっても女子リセ(後期中等教育機関)へ進学できる道が開かれた。この教育システムの成果は、この物語にも女性作家シドニー=ガブリエル・コレットやソルボンヌ大学が女性の研究者にも門戸を開いているのを知りワルシャワから留学してきた物理学者マリ・キュリー(この物語にも登場する)らの活躍にも表れている。進歩的な女性たちでもコルセットに締め付けられロングドレスを着用していたベル・エポック時代のモードからも“男性支配団”の偏見と少女誘拐の暴挙が読み取れてくる。豪華絢爛の光を放つベル・エポックの陰に、社会的な背景と問題性が盛り込まれている作品に魅せられる。【遠山清一】
監督・脚本:ミッシェル・オスロ 2018年/フランス=ドイツ=ベルギー/94分/原題:Dilili à Paris、英題:Dilili a Paris 配給:チャイルド・フィルム 2019年8月24日(土)よりYEBSU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト https://child-film.com/dilili/
Facebook https://www.facebook.com/childfilmjp/
*AWARD*
2019年:フランス映画祭2019横浜 エールフランス観客賞受賞。 2018年:アヌシー国際アニメーション映画祭 オープニング作品。第44回セザール賞(仏アカデミー賞)最優秀アニメ作品賞受賞。