若者の低投票率に危惧 2019年参院選を受けて 新潟聖書学院院長 中村敏

2019年の参議院議員選挙の投開票が7月21日に行われ、与党(自民党、公明党)が141議席、立憲民主党、共産党、国民民主党、日本維新の会、社会民主党など野党が104議席を獲得。与党は改選議席の過半数を獲得したが、憲法改正の国会発議に必要な3分の2には届かなかった。また、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」や、「NHKから国民を守る党」が議席を獲得し、政党要件を満たすなど注目を集めた。今回の選挙を受け、新潟聖書学院院長の中村敏氏に寄稿してもらった。

「すべての人のために、王たちと高い地位にあるすべての人のために願い、祈り、とりなし、感謝をささげなさい。それは、私たちがいつも敬虔で品位を保ち、平安で落ち着いた生活を送るためです。」(Ⅰテモテ2・1、2)

6年半に及ぶ安倍政権への国民の審判となる、参議院選挙が7月4日に告示され、21日に投開票がなされた。この選挙の争点としては、急激な少子高齢化社会を迎えての老後の年金問題、10月に控えている消費税値上げの是非、憲法改正問題等が主な争点であった。
安倍首相による衆参ダブル選挙も一時取りざたされたが、結局参議院単独選挙となった。政権与党である自民党と公明党は全国で選挙協力をし、安定した国政の継続を訴えた。対する野党は一人区すべてで統一候補を擁立し、安倍政権の年金政策や消費税値上げに対する反対、安倍政権下での改憲反対や記録の改ざん、失言などの失政への批判を展開した。
開票の結果は、与党が改選議席の過半数獲得によって勝利し、安倍政権の信任ということになった。このことは、国民が変化よりは現状による安定の道を選んだということができよう。しかし憲法改正のための国会発議に必要な改憲勢力3分の2には及ばず、国民が安倍政権下での改憲を必ずしも望んでいない結果となった。
私たちは、今回の選挙結果を現時点における民意と受け止めつつ、キリスト者としての立場で、日本の直面する社会問題に積極的に関わり、声を挙げ、活動していきたい。
今回の選挙結果を安倍政権は、「勝利」と受け止め、引き続き政権を自信をもって担っていく姿勢を示している。選挙前における共同通信社の世論調査でも、内閣支持率は50%前後で高止まりしており、その結果通りと見ることも可能である。
しかし、果たして単純に安倍内閣が多くの国民から支持されており、今回の選挙でもそれが裏付けされたとみることができるだろうか? 選挙前の世論調査における安倍内閣支持の理由として、44%の人々が他に適当な人がいないからと答えている。このことは、安倍内閣が積極的に支持されているというよりは、今のところ他に代わりうる選択肢が無いということができよう。
つい先日出版された『平成時代』(岩波新書)で東大教授の吉見俊哉は、平成時代を「失敗」と「ショック」の30年史と呼び、政治の失敗として、「民主党政権の大失敗は、今日の安倍晋三自民党一強体制を生んでしまった直接の要因である」と指摘している。選挙の中でも、安倍首相は過去の民主党の失政による混乱を繰り返して引き合いに出し、「安定か混乱か?」と強調した。
その点において、対抗軸となるべき野党が「多弱」と揶揄(やゆ)されざるを得ない現状で、充分な受け皿となり得なかった。今回、山本太郎率いる「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」などが政治団体として新たに参入し、大きな話題を呼び、議席を獲得したことも注目される。既存の野党に不満を持つ層の一定の受け皿になったとみられる。
今回の選挙で注目すべきは、投票率が48・8%と50%を割り込み、過去の参議院選挙としては2番目に低かったことである。特に将来を担う若者の投票率が非常に低いことは、以前から指摘されていることである。欧米、特に北欧の若者と比べると日本の若者の選挙に対する関心の低さは、際立っている。日本の教育で主権者教育がほとんどなされていないことや、通常の生活の場で政治を話題にすることが余り無いことが考えられる。これは国民全体にとっての大きな課題である。
私自身は九条の会で活動している者として、憲法改正の国会発議に必要な3分の2を参議院で確保できなかったので、安堵している。しかし、安倍首相は悲願である自分の任期中の改憲を決して諦めておらず、そのための施策に積極的に動き出している。
安倍首相は憲法改正について、選挙戦で「憲法改正を議論する政党か、しない政党か?」と問い、自衛隊の9条明記も繰り返し訴えた。そして、参院選の結果を受けての記者会見で、「憲法改正を最終的に決めるのは国民投票だ。議論するのは国会議員の責任だ。議論は行うべきである。これが国民の審判だ」と強調した。しかし、投票当日に実施された共同通信社の出口調査では、安倍首相の下での憲法改正に反対は47・5%で、賛成は40・8%という結果が出た。今、イラン情勢をめぐって自衛隊の海外派遣の可能性が論議されているが、憲法九条は明確に自衛隊の海外派兵を禁止している。
私自身は、現行憲法、特に九条は日本の過去の侵略戦争に対する歴史的反省から生まれた画期的なものであり、それを守り抜くことが今生かされている私たちの使命であると考えている。そして、
毎週街頭でスタンディングし、道行く人々、特に未来を担う子どもたちに平和憲法を共に守ろうと呼びかけている。