子どもたちに隠れて懸命に自転車乗りの練習をするがうまくいかないラウル少年 (C)RAOUL TABURIN 2018 – PAN-EUROPEENNE – FRANCE 2 CINEMA – AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA – BELLINI FILMS – LW PRODUCTION – VERSUS PRODUCTION – RTBF (TELEVISION BELGE) – VOO ET BE TV (C) PHOTOS KRIS DEWITTE

20世紀初頭に始まる自転車のロードレース、ツール・ド・フランスに熱くなるフランス人にとっては、男女の違いなく自転車は体の一部みたいなもので、もし大人になっても“自転車に乗れない”としたら恥ずかしくて誰にも言えないことかもしれない。傍から見れば些細なことでも、村一番の自転車店のオーナーとしては隠し通してきた小さな秘密が、いまや沽券にかかわる重大な秘密になり心の重荷になっている。その重荷からどのように解放されるか。幼少時期に多くの人が経験した“自転車に乗れた”喜びにも勝るとも劣らないカタルシスへの展開が心いっぱいに広がるポエティフルな物語。

【あらすじ】

南フランスのサン・セロン村。自転車店のオーナー、ラウル・タビュラン(ブノワ・ポールヴールド)は気立てのいい妻マドレーヌ(スザンヌ・クレマン)とソフィー(メリー・ファビリー)、マルタン(エワン・ジョン・シショック)の家族4人で幸せに暮らしている。自転車の修理については村一番のプロで、村人たちは自転車をチャリンコではなく“タビュラン”と呼んで彼の知識と修理の腕前に全幅の信頼を置いている。11歳の時に自転車で空中回転をして池に着水した英雄伝を持つラウルだが、じつは子どもときから“自転車の乗れない”という秘密を隠し続けている心の重荷に苛まれている。。

村では誰もが親の家業を継ぐことを誇りにしている。6歳のラウルも郵便配達員の父親(グレゴリー・ガドボア)の跡を継ぎたいと思い懸命に何度も自転車に乗る練習をしたが、補助輪なしでは身体のバランスがとれずペダルも踏み込めないためすぐに転んでしまう。11歳になると、なぜ自転車の乗れないのかを追及するため、自転車を解体し変速機からベアリングまで研究し尽くそうとする。自転車には乗れなくても自転車は愛しているラウルを見て、20歳の誕生日に父親がレース用の自転車をプレゼントしてくれた。ますます心苦しくなったラウルは、突然の雷雨の時だったが意を決して父親に告白した。だが、父親は怪訝な表情で配達に行こうとしたとき雷に打たれて亡くなり、ラウルの決定的なトラウマになる。

村のダンスパーティで両親を自転車事故で亡くしたマドレーヌと親しくなり結婚へ。ラウルは、マドレーヌ両親を亡くした心の傷に触れないため「一生、自転車には乗らない」と約束してプロポーズ。一男一女を授かり、地域で一番の自転車修理士として恙無く暮らしていたが、パリから写真集「村人たちの顔」シリーズを撮っている写真家エルヴェ・フィグーニュ(エドゥアール・ベール)が村にやって来て滞在取材する。気さくなエルヴェと親しくなったラウルだが、ある日、エルヴェから自転車の乗って走る姿を撮りたいと要望されたラウル。エルヴェの下宿先からカメラを盗み出して撮影を逃れようとしたラウルだが、盗んだカメラはエルヴェの父親の形見だった。エルヴェの心を悲しませてしまった申し訳ない思いから、ラウルはエルヴェの要望を受け入れる決心をする…。

村人たちを撮影取材に来た写真家のエルヴェ(左)にラウルは気の置けない親友になるのだが (C)RAOUL TABURIN 2018 – PAN-EUROPEENNE – FRANCE 2 CINEMA – AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA – BELLINI FILMS – LW PRODUCTION – VERSUS PRODUCTION – RTBF (TELEVISION BELGE) – VOO ET BE TV (C) PHOTOS KRIS DEWITTE

【見どころ・エピソード】

フランスの国民的作家とも評されるジャン=ジャック・サンペのベストセラー絵本『今さら言えない小さな秘密』(萩野アンナ訳、ファベル刊。旧題:『とんだタビュラン』)を原作に、脚本のギヨーム・ローランとともにサンペ自身が共同脚本に参加しカメオ出演して映画化されたメルヘン。原作の画風、のどかな南フランスの村でのゆったりした時の流れと情緒がじっくり伝わってくる。原作者が共同脚本しているだけに、自転車に人格があるかのようにラウル少年の後を静かについていく姿など自転車への愛情とメルヘンチックなシーンが違和感なく愉しめる。

ラウルは、少年時代から結婚式や父親になった40代の家庭生活でも常にブルーのオーバーオールを着ているのが、なんともおしゃれな雰囲気。昔からフランスの俳優さんは、個性的な味わいを醸し出すのが上手。“自転車の乗れない”という小さな秘密、一つのコンプレックスが村一番の自転車修理のプロという素晴らしいタラント(才能)を覆い、心を閉じこめていく。心の隙を衝いてくる秘密を隠そうとせず、自分のタラントに目を向けてオープンマインドに生きていく素晴らしさに
気づかされ癒される作品で魅かれる。 【遠山清一】

監督:ピエール・ゴトー 2018年/フランス/フランス語/90分/原題:RAOUL TABURIN 配給:セテラ・インターナショナル 2019年9月14日[土]よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.cetera.co.jp/imasaraienai/
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