映画「コンプリシティ 優しい共犯」ーー制度では捉えきれない人間の心情に寄り添うとは…
外国からの語学留学生や技能実習生が日本語学校、実習先から失踪して不法滞在者・不法労働などの社会問題を報じるニュースがあとを絶たない。現在の技能実習制度では、2018年だけでも9000人を超える実習生が失踪しているという法務省のデータも公表されている。不法滞在してまで外国である日本で働かざるを得ない一人の中国人失踪者の物語をとおして外国人実習生の問題に関わる日本人の在り方を問いかけている。
劣悪な労働環境からの逃走
中国の田舎町から日本の工場に技能実習生として来日したチェン・リャン(ルー・ユーライ)。だが劣悪な労働環境に耐えられず実習先を疾走し、闇ルートからパスポートを入取するため家屋から給湯器を窃盗して売りさばき“リュウ・ウェイ”名義の別人になりすます。
チェン・リャンは、町工場を再建してもらいたいと母親シュ・ヂェン(シェ・リ)と祖母グゥイ・シュン(バオ・リンユ)の期待と援助を受けて中国の片田舎を送り出されてきた。多額の借金をしており、期待を裏切れない負い目から実習先を疾走したことは打ち明けていない。なりすました“リュウ・ウェイ”は、山形県の田舎町の蕎麦屋で実習することになっている。何度も実習確認の連絡を受けてチェン・リャンは、住み込みで実習できる山形の蕎麦屋へ出向いていく。
無口だが店主の井上弘(藤 竜也)はチェン・リャンを受け入れて真剣に蕎麦作りを教えようとする。店は娘の香織(松本紀保)と二人で切り盛りしている。注文の蕎麦をお客に運ぶ手際をテキパキ教える香織。素直な性格のチェン・リャンは、二人に受け入れられ互いの心情も打ち解けていく。ほどなく、弘の妻の法要で息子の弘毅(浜谷康幸)夫妻が店にやってきた。父親に蕎麦屋を継ぐつもりはないし後継者もいないのだから早く店をたたんでほしいと話そうとするが、弘の心持を組む姉の香織と口論になる。気まずい空気にチェン・リャンは裏庭に出てタバコを吸う…。
出前を届けた中西葉月(赤坂沙世)と知り合ったチェン・リャン。中国の北京へ留学を予定している葉月はチェン・リャンに興味を持ち、二人は徐々に親しくなっていく。葉月の誕生日、店の蕎麦が売り切れになり二人はデートに出掛けるが、店を出た後にIDカードを入れた財布を落としたことに気づいたチェン・リャン。躊躇するチェン・リャンを急き立てて交番に届け出た葉月。失踪してから嘘に嘘を重ね
てきた“リュウ・ウェイ”の名前がほころび始めていく…。
外国人技能実習制度の問題はさまざまにるのだろう。五年間で9000人を超す人たちが、実習先を失踪している事実は、不法滞在目的のためだけでと決めつけるには早計な印象を抱かせられる。だが、この制度の歪みや問題点を衝くことよりも、“リュウ・ウェイ”という別人格になりすまし、不安定で罪悪感を抱きながら働き続けようとするチェン・リャンの在り様を、真摯に受け止めた店主の決断を問いかける物語は、“不法滞在者”“不法労働者”になっても生き続けなければならない存在者どのように接するのか迫ってくる。人の心に寄り添うことの意味深さを想わされる厳しくも優しい佳作だ。【遠山清一】
監督:近浦啓 2018年/日本=中国/116分/原題:Cheng Liang 配給:クロックワークス 2020年1月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト https://complicity.movie
Facebook https://www.facebook.com/Complicity.jp/
*AWARD*
2018年:第43回トロント国際映画祭正式出品。第69回ベルリン国際映画祭正式出品。第19回東京フィルメックス コンペティション部門観客賞受賞。第23回釜山国際映画祭正式出品。 2019年:グラスゴー国際映画祭正式出品。