(C)2017 – JERICO-PATHE PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION – NEXUS FACTORY – UMEDIA

なんとも凄まじいばかりの母親と息子の愛情物語。フランスの最高峰の文学賞ゴンクール賞を史上唯一2度受賞した戦後の文豪ロマン・ガリ(出生名:ロマン・カツェフ1914年5月8日~80年12月2日)の自伝小説『夜明けの約束』を元に、母親ニナとの思い出を軸に彼の半生を描いている。ロマン・ガリは映画「史上最大の作戦」(米国映画、1962年製作)の脚本陣の一人に名を連ねており、ロマン自身映画監督作品を撮り、主演女優ジーン・セバーグを妻としていた人物なのでその名を知る映画ファンもいることだろう。文学はじめおよそ芸術作品の源流ともいえる作家の生涯と人格形成には心惹かれる。原作とともにロマン・ガリとの出会いに心動かされる作品。

息子の大成を信じて厳しく養育するニーナと
母親の厳しい躾けに愛で応答するロマン

1950年代、作家でフランス総領事を務めるロマン・ガリ(ピエール・ニネ)は、妻レスリーとメキシコを旅行していた。頭痛を訴えながらも執筆をやめないロマン。ある夜、倒れてタクシーでニューメキシコの病院へ向かう車中で、執筆しているのはどんな内容か尋ねる妻に、ロマンは「証しだ。多々についての本だ」と答える。

1924年のヴィリニュス(ポーランド)。母のニーナ(シャルロット・ゲンズブール)は、婦人用帽子の訪問販売で生計を立てながら少年期のロマンと暮らしていた。ユダヤ人の母子に、世間の風当たりは厳しい。だが、ニーナは息子ロマンにも近隣や出会う人たちに対しても「この子はフランス大使になる! 将軍になる!」と呪文のように言い続け、ロマンは委縮し、世間から嘲笑される。詐欺まがいの手法で全財産はたいて高級ブティックを開店して成功するニーナ。ロマンにフランス語修辞学やダンスなど社交界で通じる躾に全力を注ぐニーナ。だが、金払いの悪い貴婦人たちにいいようにあしらわれ破産の憂き目を見たニーナをロマンはダンスをしようと励ます。ニーナは、ロマンが14歳の時フランスのニースへ移住しフランス国籍を取得する。

古美術店のオーナーに才覚を買われたニーナは、任されたホテルの販売店を繁盛させ不動産の仲介にも成功。自分が仲介した物件をホテルに改築して成功し、ロマンをパリの大学へ入学させる。文学を志すロマンを励まし続けるニーナ。母の期待に応えようと授業をさぼってまで作品を書き続け、在学中に『嵐』が新聞小説に選ばれてニーナを喜ばせる。

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大学を卒業するとニーナの期待に応えてフランス空軍士官学校に入学したロマン。だが少尉の任官は得られず300人の士官候補生の中でただ一人落第。指導教官の大尉は、「ユダヤ人で帰化してまだ期間が短いため」と留年の理由をきかされたロマンだが、それを正直にって母親を悲しませたくないため校長の奥さんと出来てしまったことがばれての留年とごまかす。日ごろから「男が闘う理由は三つだけ。女と名誉とフランスのためだけ」と言い続けるニーナを納得させる最上の理由だった。

ペタン元帥がヒトラーに屈服し、ド・ゴール将軍はイギリスへ亡命し自由フランス軍を起こし連合軍に参与した。フランスの空軍部隊に残っていたロマンをニーナは、檄を飛ばしに足しげく通ってくる。その姿を嘲笑する兵士たち。だがニーナは意に介さない。指導教官だった大尉らとイギリスへ亡命する直前、病院からかかってきたニーナからの電話で入院していることを知ったロマン。

イギリスへ行ってドイツと戦えというニーナの檄に応えて亡命したロマン。ニーナから「どんなときにも書き続けなさい。死ぬことは許さない」などとロマンへの檄文の手紙が毎週送られて来るようになった。やはりユダヤ人であるためかなかなか出撃命令を受けられない苛立ちから事件を起こして独房へ。しばらくしてアフリカ戦線へ派兵されたロマンは、母の期待に応えようと小説『白い嘘』を書き始める。出撃でも勲章を授与される活躍をしたロマン。母親からの手紙と夢にまで現れる励ましとニーナとの会話に高められるロマンは、ニーナが自慢げに公言していたことを一つひとつ実現させていく…。

母の過激な要求と期待の重圧
それに応えて一つになる母子

幼少期からロマンは「将来、大物になる。」と信じ切り、将軍、フランスの大使になる、酒飲みで死んでから有名になる運命にある画家は駄目だが、文豪作家になるためには努力も投資も惜しまない。母親ニーナ役のシャルロット・ゲンズブールと、母親の叱咤激励の重圧に応えようと必死に努力する息子ロマン役ピエール・ニネの存在感のある演技に引き付けられていく。

第二次大戦ごろのユダヤ人でシングルマザーという偏見を背負った母子が、世間の後ろ指に負けまいと目標に向かって邁進する。それは成功主義の権化のように見えるが、息子をロボットのようには観ていないニーナ。馬鹿げているようにも見えるユーモラスな行為も、母子には至って真剣で真面目なことで、与えられている才能を引き出そうと必死になっているだけ。母子二人で一つの生き方を探り求めていく在り方に、息子に要求したことは親にもそれを果たさせる責任があることを見せつけられている想いがする。ロマンがニースからパリの大学へ進学する直前、“母の宗教的発作”と評してロシア正教の礼拝堂で祈る二人の姿に、愛情には霊的な呼吸と休息が要ることにも気づかされた。 【遠山清一】

監督・脚本:エリック・バルビエ 2017年/フランス=ベルギー/フランス語、ポーランド語、スペイン語、英語/131分/映倫:R15+/原題:La promessa dell’alba 配給:松竹 2020年1月31日[金]より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト https://250letters.jp
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*AWARD*
2019年:第45回セザール賞主演女優賞(シャルロット・ゲンズブール)・脚色賞・衣装デザイン賞・美術賞の4部門ノミネート。