映画「恐竜が教えてくれたこと」ーーリゾートで出会ったミステリアスな少女と7日間の人生探し
ちょっと小賢しい11歳の少年が、がむしゃらな冒険心と大人の世界への好奇心や異性への淡い想いなど思春期の感性が香り立つ現代のメルヘン。自分が死ぬときはどんな思いになるのだろうかと思いを巡らす小賢しい11歳の少年。彼に輪をかけて突飛な発想を現実化する行動力旺盛な少女。個性的な二人が出会い、周囲を巻き込んで大人の世界への関心に足を踏み入れていく展開が、自然と人間との世界観を感じさせる映像美とともに惹かれていく。
地球最後の恐竜は死ぬとき
どんな気持ちだったろう
11歳の少年サム(ソンニ・ファンウッテレン)は、夏のバカンスの1週間を楽しむため家族4人でテリスへリング島にやってきた。学校でも“ちょっと変な子”に見られているサム。父親(チェッボ・ヘッリツマ)と兄のヨーレ(ユーリアン・ラッス)は海水浴場の浜辺でサッカーを楽しんでいるが、サムは自分が寝そべる大きさの穴を深めに掘って、「地球最後の恐竜は、自分が最後の恐竜だと知っていたのだろうか」と想いを巡らしている。やがて、家族で最後に死ぬのは一番年下の自分だろう、今から孤独に耐えられる訓練をしておかなければと、死と人生に考えが及んでいく。そこに、父親からいっしょにサッカーをやろうと勧められ、遊んでいるうちにサムが掘った穴にヨーレが落ちて足を骨折してしまう。
サムが、孤独に耐えられる訓練を考えながら散歩していると、庭でパソコンを見ながら何かしている少女テス(ヨセフィーン・アレンセン)に呼び止められ、「ドイツ語はできるか?」と聞かれる。「オランダ人なので…」と答えると、次には「サルサの練習相手になってほしい」と半ば無理やりに付き合わされる。“変な子”と言われることに自覚しているサムだが、自分よりはるかに変な子だと驚愕する。さらには、テスの携帯に電話が入り、看護師をしているテスの母親イーダ(イェネフェル・ホッフマン)が持っている貸し別荘に客が来るという。サムは、貸別荘の掃除まで手伝わされる。
テスのペースに引きずられてしまうサムだが、父親はテスが生まれる前に亡くなったと母親のイーダから聞いているなど家族や町の人たちについても話してくれた。電話をくれたヒューホ(ヨハネス・キーナスト)が恋人のエリーセ(テレンス・シェウルス)と一緒に到着した。気さくに挨拶するヒューホ。だが、なぜかテスは緊張した表情で握手もせずに立ち去ってしまう。後を追うサム。事情を尋ねるとヒューホは実の父親なのだという。母親のイーダからは父親は亡くなったと聞かされてきたが、昔の手紙などを探し出しFacebookで調べあげて、懸賞に当たったと招待状を送りヒューホ呼び寄せた。サムは、ユニークな発想とピュアな探求心で思い切った行動力を発揮するテスの自分探しに巻き込まれていく…
人生と死、人との出会いや
思い出を愛おしむメルヘン
テスは、母親に内緒でヒューホ呼び寄せ、実際に対面すると戸惑ってしまう。そんなテスの背中を押すサム。サムも毎日2時間ずつ増やしていく“孤独に耐える訓練”を家族には内緒にしてるため、バカンスを一緒に愉しもうとしないサムを訝しく思う。挙句には、テスに振り回されて訓練もままならない。海岸では命の危険を妻を亡くして独り暮らしの老人に助けられるサム。平凡な日常のようで、生きていることそのものがエキサイティングなこと。テスや大人たちとの出会いをとおしてひと夏の出来事が死と人生を想う貴重な思い出を作り出していくハートウォームなメルヘンだ。【遠山清一】
監督:ステフェン・ワウテルロウト 2019年/オランダ/オランダ語・ドイツ語/84分/映倫:G/原題:Mijn bijzonder rare week met Tess、英題:My Extraordinary Summer with Tess 配給:彩プロ 2020年3月20日[金]よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://kyoryu.ayapro.ne.jp/
公式Twitter https://twitter.com/kyoryumovie
Facebook https://www.facebook.com/kyoryumovie/
*AWARD*
2019年:第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus部門国際審査員スペシャルメンション受賞。キノキノ国際子ども映画祭観客賞受賞(クロアチア・ザグレブ)。ニューヨーク子ども映画祭グランプリ受賞。クリスチャンサン国際子ども映画祭子ども審査員賞受賞(ノルウェー)。