立法院の議場を占拠する学生たち (C)7th Day Film All rights reserved

2014年3月、中華民国(台湾)台北市にある立法院(日本の国会議事堂にあたる)が、会議場に突入した大学生たちと、後に大勢の市民も加わり立法院を占拠した「ひまわり運動」。発端は国民党の馬英九(マー・インチウ)政権が中国との海峡両岸サービス貿易協定を強行採決したことだった。この「ひまわり運動」のリーダーの陳為廷(チェン・ウェイティン)と社会運動に参加している中国本土からの留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)と出会った傳楡(フー・ユー)監督が、二人を見つめながら「ひまわり運動」と台湾の社会運動・民主化への一つの道標を記録しているドキュメンタリー。

多民族社会のなかで自由と
民主化求める若者たち

台湾は、先住民諸部族(原住民族)、オランダ統治期に中国本土から移住してきた漢族系の本省人、1949年に蒋介石率いる国民党とともに移住してきた外省人からなる多民族社会でもある。陳為廷は、本省人が開いてきた苗栗県出身の国立清華大学大学院生で高校時代から社会運動・民主化運動に関わっている。蔡博芸は、台湾の大学が中国本土に門戸を開いた第一期生として淡江大学に留学し、同世代の学生たちが社会運動を体現する民主主義の中心にいることに気づいてブログ「我在台湾・我正青春」(台湾で過ごす青春)を発信する。人気ブログは書籍化され中国本土でも刊行されたことから、両親は心配して「政治にはかかわるな」と毎日のようにお叱りの電話がかかって来る。傳楡監督は、台北の生まれだが両親は華僑で非本省人。「ひまわり運動」に深くかかわる陳為廷と蔡博芸を追いながら、彼らが国家と民主化について理解を深めていくプロセスと現実の政治の難しさに直面する姿が清々しい。

陳為廷が先頭を切って立法院に突入成功。後に続いた学生たちとともに会議場を占拠し、やがて国民党政権の強行採決に反対する市民も参加して立法院に立て籠る。占拠した議場に飾られていたひまわりがシンボルとして語られるようになった「ひまわり運動」。陳為廷は林飛帆(リン・フェイファン)とともにリーダーを務めていく。市民の声を聞けと訴えてきた陳為廷たちだが、占拠する日数が進むにつれ、進め方にさまざまな要望と不満が湧き出てくるようになり民主化の理想と現実のギャップに直面する。それでも、要求に対する立法院議長の柔軟な対応が見えたことで占拠から23日間で解除することが決まった。

陳為廷(右)と蔡博芸  (C)7th Day Film All rights reserved

「ひまわり運動」の顛末を経て、陳為廷は立法委員(議員)補欠選挙に立候補したが、彼自身の過去のスキャンダラスな行為が暴かれて撤退する。蔡博芸は、大学自治会会長選挙に立候補するが国籍を問題視され不当な扱いを受ける。民主化への理想を打ち砕かれるような現実を経験した二人が、傳楡監督との対面インタビューで語る心の吐露からは自由意思を抱いて歩むことの気高さと脆さの温もりを感じさせられる。

 

李登輝の台湾アイデンティティを
受け継いでいく孫世代の若者たち

「ひまわり運動」から6年、海峡両岸サービス貿易協定は未だ発効されていない。政権も国民党から民主進歩党主席の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統へと変わった。

クリスチャン政治家で台湾民主化の父と評された李登輝(リー・テンフイ)元総統が7月31日に亡くなった。晩年の著書『李登輝より日本へ 贈る言葉』の中で「中華人民共和国は1949年になって中華民国から出てきた。それ以前もそれ以後も、中華民国はずっと存立している。中国大陸にあるのは分離した新しい国家だ」と一国二制度に異を唱えている。1992年から台湾人/中国人意識調査を実施している政治大学選挙研究センターの2020年調査によると“台湾人であり中国人ではない”と意識する人たちが67%に達するという。李登輝の台湾アイデンティティを抱けというスピリットが、李登輝の孫世代にも受け継がれていく展望が、このドキュメンタリーからも感じさせられる。【遠山清一】

監督:フー・ユー(傳楡) 2017年/台湾/116分/映倫:G/原題:我們的青春,在台灣、英題: Our Youth in Taiwan 配給:太秦 2020年10月31日[土]よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.ouryouthintw.com
公式Twitter https://twitter.com/ouryouthintw

*AWARD*
2018年:金馬奨最優秀ドキュメンタリー映画賞受賞。台北映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞受賞