東日本大震災追悼特別番組配信 南三陸、気仙沼から生中継 「忘れないで」を届けたい 「愛と希望のコンサート 3・11を忘れない~10年目の未来へ~」

東日本大震災から10年目の3月11日、追悼特別番組「愛と希望のコンサート 3・11を忘れない~10年目の未来へ~」(宮城三陸3・11東日本大震災追悼記念会実行委員会主催)が配信された。当日は宮城県本吉郡南三陸町、宮城県気仙沼市からの生中継もあり、被災者や支援者らのコメントを配信。地震発生時刻の午後2時46分に1分間の黙祷をささげた。(2、4面に関連記事)

地震発生時刻午後2時46分になると、震災で亡くなった人たちを追悼し1分間黙祷をささげた

午前中は宮城県本吉郡南三陸町から中継。自身被災者でありつつ支援活動を続けてきた嶺岸浩さん(保守バプ・気仙沼第一聖書バプテスト教会牧師)は、「人々の心の問題はなかなか分からない。震災のことを話したくないという人がいる。その中でもいろんな形で話をし、心が開かれていく関係もできている」と話す。
司会の中橋スティーブンさん(石巻クリスチャンセンター現場責任者)や横山あかりさん(東松島アメイジング・グレイスセンタースタッフ)も「この10年、関わることの大切さを知った」と応答。宮城県で子どもの不登校の割合が4年連続で全国最大となったことに触れ、横山さんは不登校やいじめなど課題を抱えた子どもたちと向き合ってきた経験を語った。
中澤竜生さん(宣証“地域支援ネット架け橋”代表、東北ヘルプ理事)は「南三陸町の復興は他地域と比べ早い。だが災害で大事な人を亡くした痛みは数字では測れない。みんなが頑張ろうという時に、取り残される人がいる」と述べた。

10年間を振り返る嶺岸さん

デイビッド風間さん(ニューソングチャーチ牧師)は「10年で終わりでなく、むしろ新しい出発の時。少子高齢化の日本の中で、東北は最初にチャレンジを受けた。東日本大震災を覚えることは日本の様々な災害、戦災も覚えること。苦しみや弱さを知ったからこそ、思いやりをもって歩める」と期待した。
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午後は気仙沼第一聖書バプテスト教会(気仙沼市岩月宝ヶ沢)から中継。嶺岸さんはこの10年間を振り返った。「あの日は新会堂が建って3年ぐらい経った頃。激しく揺れた。その瞬間、津波が来ると思ったので妻と娘と高台に逃げた。12分には津波が来たので、すぐに逃げて正解だった。いのちが助かったこと、多くの教会の方々が応援し、祈り、会堂も新しくさせていただいたことに感謝している。これからも、いろんな方々と関わらせていたくことの大切さを伝えていきたい」と語った。

岩渕まこと・由美子夫妻

支援者や被災者の声も届けた。仙台FCBC牧師のカレブ・チャン氏はこう振り返った。「10年前、テレビをつけると津波の映像が流れてきた。それを見て、日本に行って手伝わなければならない、2日後には日本行きの飛行機に乗っていた。そのことが、妻と一緒に日本に来るきっかけとなった。今もいのちが、大切なものが失われたことによる痛みがあるが、新しい未来を切り開く姿も見ることができた。神様の癒やしが皆様の上にあるようにと、今後も祈っていきたい」
津波で九死に一生を得たと言う地元の被災者からは「失ったものよりも多くの愛をいただいた。世界中からボランティアが来てくださり、いい働きをし、彼らからいっぱい愛情をいただいた」と感謝した。
また、ボランティアを通じて出会い、結婚した中橋スティーブン・アン夫妻、追悼特別番組で司会を務める音楽伝道師の久米小百合さん、被災地支援活動をしてきたゴスペルシンガーの神山みささんらが、思いを語った。

スティーブ・サックス

その後、会堂にいた人々はみな外に出て、午後2時46分を知らせるサイレンが鳴ると、震災で亡くなった人たちを追悼し1分間黙祷。終了後は復興会支援ソング「花は咲く」をみんなで唱和した。
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午後3時には「愛と希望のコンサート」本編が配信された。出演アーティストは、サックス奏者のスティーブ・サックスとピアノ伴奏の広瀬みちる、チェリストの井上とも子とピアノ伴奏の菅野万利子、ゴスペルシンガーの萩原ゆたか、岩渕まこと・由美子。ナビゲーターは久米さんと中橋さん。番組では出演アーティストの歌と演奏の合間に、被災当時や現在の被災地の様子を美しい映像で紹介。被災者の体験談や寄り添ってきた支援者たちのコメントがふんだんに盛り込まれており、悲しくつらかった震災当時を振り返るだけでなく、この10年の歩み、10年目からの明るい未来を展望する、希望に満ちた構成だ。
番組内で語られたコメントの一部は以下の通り。「目の前で起きたことは、経験した人には分からない。でも、日本人には一歩を踏み出す力が備えられている。それは一人ではなく、助け合って一歩を踏み出すこと。その中に希望があるのではと思う」(救世軍仙台小隊・粟飯原順)、「震災という不幸なことがあったが、その分、多くの方々の支援があって今がある。そのご縁を大切にしながら次のステップに行きたい」(宮城県女川町・酒井孝正)、「津波が来るということで、『避難しなさい』と大声で叫びながら高台に逃げた。下をみたら町が廃墟と化していた。うれしかったことは中澤先生と会えて、全国のクリスチャンとつながって、ご支援をいただいたことです」(南三陸町志津川・佐藤良夫)

岸浪市夫牧師(左端)と泊浜の人々

岩渕さんは東北復興応援団LOVE EASTの活動を振り返り、「すべてが手探りだったけれども、その中でたくさんの出会いをいただき、自分自身へのたくさんの応援もいただいた」とコメントした
中澤さんは、今回の追悼記念会が動画配信になったことについてこう語る。「コロナ感染が収まる状況ではなかったので、収録にした。この動画で期待していることは、『忘れないで』と言う言葉を届けること。他の災害に遭った方々も覚えているし『忘れない』と発信したい。だから、この番組を見た時、関わった場所を思い起こし応援してほしい。また、私たちはこの現場に立つことから人と人がつながっていく。それは単に友人知人に留まるのでなく、生涯かけての関係で、私たちの心と心のつながりを意味している。それを今後も実践していきたい」
同番組はURL https://www.youtube.com/watch?v=NlXpV4F9dsE で、4月10日まで視聴できる。