4月4日号紙面:【復活の希望・イースター特集】召天1か月前に夫婦で病床洗礼 家族つないだネットが信仰導く
体力自慢の父 召天1か月前に夫婦で病床洗礼 家族つないだネットが信仰導く OMF宣教師、カルバリーバプテスト教会牧師夫人 ウォング平出朋美さん
年明けの1月6日、父(正陽)の80歳の誕生日を祝うためシンガポールから東京にLINEビデオした時、脊椎の痛みに悶える父が映っていました。脊柱管狭窄症の手術をしたことがあり、その後遺症だと思っていた父は自分で整骨院に通っていましたが、今回の痛みは尋常でなく、翌日行った病院先で倒れて即入院となり、「圧迫骨折」、「腸骨大動脈瘤」、「多発性脊椎転移」と診断、さらなる生検検査の後、「原発不明癌、ステージ4」と診断が下されました。
70歳を過ぎてもサイクリングレースに出場し、皆から鉄人と呼ばれてきた父が?! その時日本は千800人近くのコロナ感染者で緊急事態宣言が出たばかり。帰国すべきか、私は非常に悩みました。
しかし「今帰らないときっと一生後悔する」と主人や兄弟姉妹たちに励まされ、PCR検査を受け、二重の医療用マスク、ゴーグル装着で17日に日本に入国し、唾液検査、レンタカーで移動、2週間の自宅待機を終えました。
† † †
父の入院する総合病院もコロナで逼迫(ひっぱく)していました。病院からは、「ここではこれ以上の治療はできないし、病院も逼迫しています。自分で希少がんの症例のある大学病院を探してください」と、追い出されるように退院となりました。一旦帰宅した父は食欲も落ち、弱くなってきました。
私と母、シンガポールにいる家族やたくさんの兄弟姉妹たちが、ずっと父の救いを祈ってきました。私は聖霊の導きを祈り、牧師でもある主人と「今が時だ」と、Zoomミーティングでシンガポールの家族と東京をつなげました。主人が「お父さん、人生で最も大事な質問があります」と切り出しました。「お父さん、クリスチャンにはこの地上がすべてではなく、天国という永遠があります。イエス様を信じる人は皆天国に行きますよ。お父さんは天地の創り主である神様を信じていますか。お父さんの罪のために十字架で死なれたイエス・キリストを救い主として信じていますか」
父は一つ一つの質問に「はい!」「その通りです!」と、明るく歯切れよく答え、罪人の祈りを繰り返しました。まるで聞かれるのをずっと待っていたかのようでした。暗く重い空気が立ち込めていた部屋にパッと光が射し、聖霊の存在に包まれ、感動で満ちた時でした。
その後、私の母教会でもある単立・久留米キリスト教会の森本泰三牧師に報告しましたら、すぐに駆けつけてくださり、「早いうちに病床洗礼の準備をしましょうね」と言ってくださいました。シンガポール、日本の兄弟姉妹たちも、本当に父のためにとりなしの祈りをしてくださっていました。
その後、父は大学病院に入院となり、面会禁止の日々が続きました。ある日父から「私はクリスチャンになれますか」とLINEでメッセージがきました。私は「お父さんは、もう信仰告白をしたからクリスチャンだよ」と返事をしましたが、父は洗礼式を待っているのだとすぐに察しました。病院に特別にお願いして小さな個室を用意していただき、2月24日に森本牧師により、父と母の洗礼式を授けていただきました。
母は2017年に信仰告白し、すでにクリスチャンでしたが、父の信仰告白を待っていたので洗礼はまだでした。夫婦で一緒に洗礼式ができたことは感慨深いものがありました。いかに両親が人生の様々な試練の中で、どれだけ互いに支え合ってきたかを思い、心を打たれました。
† † †
父は、東京消防庁の特別救助隊隊長として炎の中から人の命を助け出すことを仕事として生きてきました。強靭(きょうじん)な体力と精神力が必要とされる一線から退き、これから何をしようかと思っていました。その矢先、メリー・ペナー宣教師が始めたNPО「希望の車いす」によるボランティア募集のチラシを父に見せると、人助けや修理の大好きな父は、その募集に応じました。そして、日本で修理した中古の車いすをアジアへ送る活動にのめり込み、それ以来この活動に情熱を燃やし、生きがいとしてきました。車いすを贈呈するためにカンボジア、ミャンマー、タイ、モンゴルの施設にも皆さんと足を運びました。「愛とは行為である」という信条の父にとって、奉仕活動、他のクリスチャンボランティアの方々との交わりが教会、求道生活でした。
そんな父でしたが、10年以上ボランティアのために教会に毎週行っていても、礼拝自体には行こうとしませんでした。しかし、コロナになってから礼拝がオンラインになり、パソコンができない母のために父がセッティングをし、自分も参加するようになりました。
主はコロナによる規制でさえ、その貴い救いのご計画のために用いてくださったのです。(正陽さんは3月21日に召天しました)