コンサート第二夜。「Never Grow Old」を弾き語りし聴衆の魂を揺さぶるアレサ。 2018(C)Amazing Grace Movie LLC

2018年8月16日、“クイーン・オブ・ソウル”と称され1987年に女性アーティストとして初めて“ロックロールの殿堂”入りしたゴスペルシンガー、アレサ・フランクリンが膵臓癌のため76歳で召天した。同年11月にアレサ・フランクリン・エステート側が、1972年1月13日・14日にロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのライヴを収録した本作の上映に合意したことで、2019年4月に全米公開された。

当時、本作のドキュメンタリー映画は、300万枚以上売り上げている2枚組アルバムレコードとのタイアップが予定されていた。ところが、直近での監督交代などもあって映像とライブ音源の同期が取れない技術的なミスが起こり製作中止になっていた。いわば幻の教会ライブ映像が、製作を引き継いだアラン・エリオットらと現代の技術スタッフたちによって修復され、49年ぶりに日本の音楽映画シーンにも蘇る。

歌手としての成功、そして離婚。
教会で歌う! 魂と歌への原点回帰

19歳でコロムビア・レコードから歌手デビューする前、未婚のまま既に2児の母親になっていたアレサ(彼女は生涯に4児を産み育てている)。1966年にアトランティック・レコードに移籍するとプロデューサーのジェリー・ウェクスラーは、アレサのゴスペルフィーリングを前面に出す方針を固める。人種差別と公民権運動が激しくなる時代の中で南部アラバマ州の白人スタジオのマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオと白人ミュージシャンたちは、人種的な偏見を持たずパーシー・スレッジやウィルソン・ピケットらの録音を手がけてヒットメーカーになっていた。このスタジオとミュージシャンで収録したシングル「I Never Loved A Man (The Way I Love You)」(邦題:貴方だけを愛して)と同タイトルのアルバムが大ヒット。次いでオーティス・レディングの「Respect」をカヴァーした楽曲はアレサのスピリットを表現する一曲になった。

第一夜のクライマックスともいえる「Amazing Grace」を熱唱するアレサ。10分に及ぶ歌唱にクリーブランド牧師がアレサに寄り添い支える 2018(C)Amazing Grace Movie LLC

本編では、このようなアプローチを本編では「’71年までにアレサ・フランクリンは20枚以上のアルバムを発表。11曲がNo.1シングルとなった」とテロップを流し、R&Bの音楽シーンを牽引してきた数々の楽曲をリストアップしている。一方、この教会ライブの2年前には夫からの暴力に苦しみ悩まされていたが、「タイム」誌などに夫の路上でのDVが報じられたのを機に離婚した。ショービジネス界での成功とプライベートのゴシップなどが囁かれ、傷心のなかで企画されたゴスペル中心のレコ―ディンを、アレサはスタジオ収録ではなく「教会でのコンサート収録を譲らなかった」と進行役でピアノ演奏を担当したジェームズ・クリーブランド牧師は明かす。幼いころから父親が歌い説教するクルセードや教会で聖歌隊と歌い続けてきたアレサの魂の原点を存分に表現するコンサートになった。

「娘は教会を離れたことなどない」
牧師の父親が語る娘へのリスペクト

“キング・オブ・ゴスペル”といわれたジェームズ・クリーブランド牧師がアレサをサポートするプラチナバンドのメンバーを紹介すると「On Our Way」の演奏に乗ってサウス・カルフォルニア・コミュニティ・クワイアとアレサが入場し、マーヴィン・ゲイの「Wholy Holy」からチャーチライブが始まる。讃美歌、ゴスペルそしてキャロル・キングの「You’ve Got a Friend」(邦題:君の友だち)からマルティン・ルーサー・キングJr牧師も愛したゴスペル「Precious Lord Take My Hand」へのメドレーに続いて、10分間に及んで「Amazing Grace」(讃美歌:驚くばかりの恵みなりき)を熱唱するアレサ。奴隷船の船長だったジョン・ニュートンが罪を回心し神の愛に感謝する讃美に、ピアノを弾いていたクリーブランド牧師も感涙し聖歌隊を指揮していたアレキサンダー・ハミルトンに交代するシーンは第一夜圧巻のクライマックス。

2018(C)Amazing Grace Movie LLC

ワーナー・テレビで放映された第二夜には、父親のC・L・フランクリン牧師と父親のクルセードをサポートし教会の聖歌隊でアレサを指導していたゴスペルシンガーのクララ・ウォードのほか、ゴスペル「Climbing Higher Mountains」(邦題:高き山に登らん)で聴衆と一緒にクラップしているローリングストーンズのミック・ジャガーやチャーリー・ワッツらの顔も見られる。クリーブランド牧師にスピーチを促された父親のC・L・フランクリン牧師は、テレビ番組で歌うアレサに感動した女性が「でも教会に戻ってくれたらうれしい」と言った言葉に「娘は教会を離れたことなどないよ」と応答したと語り、娘が歌手であることをリスペクトする姿が微笑ましい。

第二夜の終盤に歌われる「Never Grow Old」(邦題:生命は永遠に)。キリストが建てた天の館に私の魂は安らぎ、私たちは決して年を取ることがない…。そして、クリーブランド牧師のフェイクに“私はうれしい 信仰を持っていることがとてもうれしい 私の魂は満足している”と力強く歓喜の表情でフェイクで応えるアレサ。教会でキリストに向かって歌うアレサの声は、たとえ長い苦しみのなかにあっても、キリストを見上げていれば自分が前に進めるよう寄り添ってくれるよと信仰を告白しているようで、このコンサートの聴衆のひとりとして琴線を激しく揺り動かされる。【遠山清一】

撮影:シドニー・ポラック 2018年/アメリカ/英語/90分/映倫:G/ドキュメンタリー/原題:Amazing Grace 配給:ギャガ 2021年5月28日[金]よりBunkamuraル・シネマほか全国公開。
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