シンポ「地域社会と協同労働~みんなで創り上げる『公共圏』」 福島県いわき市
自立支援で制作
稲垣氏
福島県いわき市で開催されたシンポジウム「地域社会と協同労働~みんなで創り上げる『公共圏』」(7月17日号で一部既報→ 教会は下からの「復興」のモデルに 福島で「仕事おこし」と「協同労働」の試み
2022年07月17日号)
前半は、ワーカーズコープ(日本労働者協同組合)による「協同労働」の説明、稲垣久和氏(東京基督教大学名誉教授)の講演で、教会と協同組合協働による「仕事おこし」の可能性が語られた。今回は、いわき市内の三つの教会での事例と応答を紹介する。【高橋良知】
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増井氏
増井恵氏(同盟基督・いわきキリスト教会泉グレイスチャペル牧師)は「教会と地域社会との関係は多くの場合希薄で、対立的になりやすい。入信した人は、教会活動で忙しく、地域社会に関わらなくなるから」と指摘した。
震災後、同教会から数百メートルに原発避難者の仮設住宅ができ、どうかかわるかを考えた時、「キリスト教会の本来のあり方が問われた」と振り返る。「教会は礼拝、教育、伝道、信者の交わりのためだけでなく、地域の必要に仕えるために存在する」ことを神さまから示され、その方法を模索した。
増井氏らが仮設住宅で支援した「ほっこりカフェ」
仮設では、避難者の声と願いに寄り添って、住民主導のカフェの運営の一端を担い、女性の仕事と生きがい創りとして、タオルハンガー「さくら さかせるぞう」の企画制作販売も一緒に行って、地域社会の中で、教会も共に生きる仲間として、互いに生かし合う関係ができることを経験した。
仮設閉鎖後も、教会堂で、地域住民、原発避難者、教会が一緒に運営し、みんなの居場所作りのためのコミュニティカフェを継続している。「教会は小さな存在でも、神から与えられた賜物を用いて、地域社会に貢献できるのではないか」と話した。
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佐藤氏
佐藤彰氏(保守バプ・福島第一聖書バプテスト教会アドバイザー牧師)は、福島第一原発から5キロの大野チャペル(大熊町)設立当初から「チャペル中心の村づくり構想」があったと言う。住民が、戦後に米国をモデルに産業を興そうとし、その一環で宣教師が招かれた。
続く日本人牧師は、幼稚園を運営し、地域に多くの卒園生を送り出した。会食会、地域の高齢者のための弁当配達、訪問ヘルパー派遣、シェアハウスなどの働きも展開してきた。
震災前年からデイサービス事業を準備していたところだった。
いわき市に建設した福島第一聖書バプテスト教会泉のチャペル
現在いわき市で会堂を建設し、地域の学校、サークルの音楽活動に場所を提供、英会話、ゴスペル、塾など地域に向けた働きも展開する。地域の人が使えるゲストルーム、黙想礼拝所、カフェなどを備えた「エリムの泉」も建設した。
「地域に受け入れてもらうには、地域のお役に立つ働きをするしか生き残る道はなかった現実はある。だがそもそも福音、聖書に人々へ仕える豊かさがあるのではないか」と話した。6月30日に大野チャペル付近の「帰還困難区域」が解除され、礼拝も再開している。
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森氏
森章氏(平キリスト福音教会・グローバルミッションチャペル宣教使牧使)は、津波被害を受けた地域の人と出会い、構想した、自給自足のまちづくりの「夢」を語った。
産業としてまず提案したのはノルウェースモークサーモン工場だ。「冷凍のノルウェースモークサーモンは手に入るが、100グラム千円する。ノルウェーで暮らしていたのでわかるが、本場の味と比べると、冷凍は味が劣る」と言う。ノルウェーから派遣された宣教師でもある森氏は、現地からサーモンを仕入れ、本場の方法で燻製することを構想する
もう一つは淡水魚の養殖と野菜栽培を組み合わせて循環する「アクアボニックス」。米国で長年実践しているクリスチャンが協力を申し出ているという。
森氏が構想した自給自足のまちのイメージ
「いわきのどこかで実現できたらと思う。小型の風力や、波力、地熱などで電力も自前で確保したい。人間が人間らしく生きるやさしい住環境をそなえたい。あえて教会をたてることは目的とはしない。イエス様を信じる者たちが、そうでない人たちともいっしょに住む。その中でイエス様と共に生きる姿を見てもらいたい」と話した。
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医師中村哲氏を題材にした映画も紹介された(前号参照)
これらの事例について、ワーカーズコープから応答があった。同南東北事業本部の小椋真一氏は「教会が地域に入り込んで実践、構想されていることを初めて知った。増井氏が語った教会の在り方は、私たちが目指す地域の持続可能性という目的に向かって、地域に寄り添い、多様なつながりを生み出すという点で一致している。また、住民自身が地域活動の主体者(担い手)になるというテーマと協同労働を掛け合わせられる可能性がある。協同労働の概念を選択肢の一つとして活用してほしい。稲垣氏が四セクター論(前号参照)で語った第三セクター(組合など)と第四セクター(家族、宗教)の協働に期待したい」と述べた。
同副部長の池田道明氏は「キリスト教会と追い求めていることはいっしょだと認識した。私も仙台空港で被災し、ここに立つのも不思議なくらいのことを味わった。たくさんのものを失ったが、大きなことを学び、今の働きにつながる。ICT(情報通信技術)や人工知能など、人を必要としない便利な道具が出ている。大事なことは、人と人がつながること。そこからわき出るアイデアを一緒に考えたい。今日だけで終わらず、ゆるやかにつながり、地域で何か生まれれば」と話した。
稲垣氏は「私たちが地域住民の生活に寄り添ってやるべきことは、外からの大資本の投入による事業ということではない。まずは人と人との信頼関係作りが重要だ。下からの積み上げによって、新しい仕事おこしを協働で開発できれば」と今後に期待した。
(2022年7月24日号掲載記事)