今こそ、武力によらない、愛による平和の実現を!

「平和を実現する人々は、幸いである」(マタイによる福音5章9節)

 

わたしたちキリスト者は、日本国民として先の大戦で、国の戦争政策に協力し、アジア諸国のおびただしい人々に、計りしれない苦しみと悲しみをもたらしたことへの反省を踏まえて、「永久に戦争を放棄する」と誓って70年歩んで参りました。しかし、被爆70年を迎える今年、わたしたちの国は重大な転換点に立たされています。また、フクシマにおいて再び被曝者を生み出し、今もなお多くの方々が、その苦しみの中にあるということを忘れてはなりません。

そこで、広島と長崎、そして全国、全世界のキリスト者の皆さん、また全世界の善意の人々に、次のアピールをいたします。

 

1981年2月25日、広島においてヨハネ・パウロ二世教皇は「平和アピール」を9ヶ国語で世界に向けて発表されました。教皇は、「戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です。」と語り始めて、次のように述べられました。「広島と長崎は、『人間は信じられないほどの破壊ができる』ということの証(あかし)として、存在する悲運を担った、世界に類のない町です。この二つの町は、『戦争こそ、平和な世界をつくろうとする人間の努力を、いっさい無にする』と、将来の世代に向かって警告しつづける、現代にまたとない町として、永久にその名をとどめることでしょう。」と。そして、「過去を振り返ることは、将来に対する責任をになうことです」という教皇の強い確信を繰り返し述べられ、「平和祈念碑を造ることにより、広島市と日本国民は、『自分たちは平和な世界を希求し、人間は戦争もできるが、平和を打ち立てることもできるのだ』という信念を力強く表明しました。」と語られました。また「目標は、常に平和でなければなりません。すべてをさしおいて、平和が追求され、平和が保持されねばなりません。過去の過ち、暴力と破壊とに満ちた過去の過ちを、繰り返してはなりません。険しく困難ではありますが、平和への道を歩もうではありませんか。」と訴えられました。

 

この「平和アピール」に励まされ、勇気づけられて、人類最初の被爆地ヒロシマ、ナガサキのキリスト者は、被爆者に寄り添い、被爆者の願いである核兵器のない世界、戦争のない世界の実現のために、平和を求めて祈りつつ共に歩んできました。 今年被爆70年を迎えますが、被爆者の願いは、いまだにかなえられていません。旧約の預言者イザヤは、「彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない。」(イザヤ書 2章4節)と記しています。この言葉は、国連本部の向かい側の広場の壁に刻まれています。主イエスは、「剣を取る者は皆、剣で滅びる。」(マタイ 26章52節)と言われ、平和は武力によるのではなく、愛によってこそ実現することを教えられました。

 

1979年元日のカトリック教会「世界平和の日」のメッセージにおいて、ヨハネ・パウロ二世教皇は、「キリスト者は、平和のために日々祈っている人々の第一線にいなければなりません。キリスト者はまた“平和のために祈ること”をほかの人に教えなければなりません。」と訴えられました。

 

広島長崎のキリスト者の皆さんに呼びかけます。世界で最初の被爆地となった広島、そして長崎の教会は、耐えがたい悲しみと激しい痛みを担いながら、キリストの福音に導かれて、平和を祈りつつ今日まで歩んできました。

被爆70年を迎えた今、わたしたちの平和であり、希望の源である主イエス・キリストを見上げ、福音を世に証しし、主が示してくださった平和への道を共に歩みましょう。また、平和の実現のために新たに行動することができるように「憎しみには愛をもって、不正に対しては正義への全き奉献をもって対処できるよう、英知と勇気をお与えください。」と、共に祈りましょう。

 

全世界のキリスト者の皆さんに呼びかけます。主は「平和を実現する人々は、幸いである」と仰せになりました。主の御言葉に従い、わたしたち自身を主に捧げ、世界の平和を祈りつつ、共に歩みましょう。

 

世界の善意の人々に呼びかけます。一人でも多くの人々が広島、長崎を訪れ、被爆の実相と向き合い、平和の実現のために祈ると共に、自分にできる限りの働きを始めてくださるよう呼びかけます。武力によって平和をつくることの限界を知り、互いに愛と信頼をもって関わりあい、共に歩み出していきましょう。

また、人間の制御し難い核の脅威は、ヒロシマ、ナガサキ、フクシマのみならず、世界の各地に今なお存在しています。原爆(核兵器)も原発も、おなじ「核」です。人類と核は共存できません。

わたしたちは、被造物であるすべての「いのち」を守り、すべての人間が安心して生きることのできる環境を次の世代へと引き渡していく責任があります。核兵器のない世界に向かって、また脱原発のみならず、自然や環境、すべての「いのち」を保護し、守っていく責任を委ねられたものとして、勇気をもってこれらすべての課題に取り組む思いを新たに致しましょう。

 

2015年8月6日

広島市キリスト教会連盟   会 長  月下 美孝

カトリック広島教区平和の使徒推進本部 肥塚 侾司

カトリック長崎大司教区   大司教  髙見 三明

長崎キリスト教協議会    議 長  藤井 清邦

 

日本聖公会神戸教区    主 教  中村  豊

日本聖公会九州教区    主 教  武藤 謙一

日本キリスト教団西中国教区 総会議長 小畑 太作

日本キリスト教団九州教区  総会議長 梅崎 浩二

日本キリスト教団西中国教区広島西分区長 足立 こずえ

広 島 Y M C A   総主事  上久保 昭二

広 島 Y W C A    会 長  半井  康恵

長 崎 Y M C A   総主事  桑原  伸良

長 崎 Y W C A   会 長  熊江  雅子

広島・長崎のキリスト者 有志一同

 

このアピールは「8.6キリスト者平和の祈り」実行委員会において提案され、広島・長崎のキリスト者(カトリック・プロテスタント)と共同で発表されるものです。

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