インドにおけるキリスト教徒への迫害の実態がたびたび伝えられる中、ヒンドゥー教から他宗教への改宗を禁じる「反改宗法」に対し、世界の目が向けられている。公的には「宗教の自由条例」と呼ばれ、インド国内の州単位で成立しているこの条例に対して、国連は「迫害の道具」になっている、と警告した。国際的な宣教団体「オープン・ドアーズ」が、11月2日に伝えた。

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【オープン・ドアーズ】国連の人権専門家らはインド政府に書簡を送り、反改宗法は「宗教的寛容に真っ向から対立する人々によって迫害の道具として使われ続けている…さらなる分極化を生み出し、宗教的少数者の間に恐怖の空気を生み出すことによって」と警告した。この法律は現在インドの 28州のうち11州で施行されており、全国規模の反改宗法を求める声もある。

この書簡は当初、8月16日にインド政府に送られた。インド政府が60日間の期限内に回答しなかったため、その後公表された。

 

恐怖の空気

 

法的には、反改宗法は「虚偽の説明、強制、不当な影響、強要、誘惑、詐欺的手段」によって人々をヒンドゥー教から改宗させようとする試みを防止するためのものである。しかし実際には、キリスト教徒が祈祷会を開くなど、その信仰を表明したことなどを理由に、宗教的少数派に嫌がらせや脅迫をするために使われることが多い。

書簡は次のように記す。「礼拝者が強制改宗に関与していると非難する怒った暴徒によって、祈祷会や宗教行事が妨害されたという複数の報告がある。このような事件は、宗教的少数者に対する恐怖の雰囲気を生み出し、彼らに私的制裁を加えようとする人たちに、自分たちには平和的な宗教行事を妨害し、脅迫し、暴力を行使する権利があり、それによって処罰されることなどない、と思わせる風潮を生み出す一因となっている」

この書簡はさらに、インドの権利擁護団体「アーティクル14」の報告書に言及しており、同団体はウッタル・プラデーシュ州で提出された101件の警察報告書を調査し、その大半が「反改宗法を利用してキリスト教徒に嫌がらせをするヒンドゥットヴァ集団」による告訴に基づいていることが判明した、としている。ヒンドゥットヴァとは過激なヒンドゥー教イデオロギーで、インド人のキリスト教徒(およびその他の宗教的少数者)を、彼らはインド国外に忠誠を誓っているとして、真のインド人とは見なさず、インドから彼らの存在を浄化すべきだと主張する。

 

曖昧な表現と低い有罪率

 

その他の懸念も書簡は指摘する。法律の文言が曖昧で、「虚偽の説明」や「誘惑」といった言葉が、告発者や当局によってどのようにでも解釈される可能性があることなどだ。つまり、裁判になった場合、検察官が証拠で告発を立証できないため、事件は頓挫しがちなのだ。最近、ウッタル・プラデーシュ州の裁判所が、聖書を配布した牧師夫妻を犯罪に関わっていないと判断したのは、そのためである。強制改宗の疑いによる有罪率は低いが、信者の生活に大きな混乱とトラウマをもたらす可能性がある。

書簡はまた、この法律が「改宗の一般的禁止」は宗教または信仰の自由に関する国際基準に反していること、その一方で、立証責任は改宗を引き起こしたと非難されている人物(例えば、個人的に伝道した後に誰かをイエスに導いた牧師)に負わせている、と指摘した。

2023年12月10日号07面掲載記事)