最近、「トー横キッズ」という名前をよく耳にする。東京・新宿区歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺にたむろする男女で、「立ちんぼ」と言って客引きを行う女性たちもいる。コロナを経て、当事者の若年化が進み、生活困窮と共に「推し活」でイチ押しのホストに金銭をつぎ込む女性も増加し、売春にもつながっているという。そんな歌舞伎町で2018年から夜回りを続けるのが、特定非営利活動法人レスキュー・ハブの坂本新さんだ。

6月平日の夜、レスキュー・ハブの立ち寄り所で坂本さんに話を聞いた後、午後8時頃から歌舞伎町の夜回りに同行した。最初に向かったのが大久保公園。この一帯は「立ちんぼ」スポットでもある。すでに、十代後半ではと思われる数人の女性たちがガードレールにもたれかかり、スマホ画面を見つめていた。

トー横広場に立つ女の子に話しかける坂本さん

そんな女性たちに坂本さんは気軽に声をかけ、ティッシュ、汗拭きシート、ハンドクリームなどと共に「お話を聞かせてください」と書かれたメッセージカードの入ったアイテムを一人ひとりに配る。いつでも相談に乗れるよう、カードには電話番号も記してある。「カードだけでは受け取ってくれないので、女の子たちが必要なアイテムを入れている。冬は携帯用カイロを入れるなど、季節により中身は変わります」
さらに歩くと、「トー横広場」と呼ばれる新宿東宝ビル周辺に来た。その道路沿いには、「ガールズバー」「コンセプトカフェ」など、お酒や飲食物を提供するお店から来たあどけない女の子たちがずらっと並び、お店に遊びに来てくれるお客を待つ。坂本さんは、ここでも一人ひとりに声をかけ、アイテムを手渡す。「これを見て、数は少ないが連絡をしてくださる方はいる。そこからつながりができ、つながった子が別の子を連れてくることもある。『大変な子がいる。何とかしてほしい』との相談も来ます」

大久保公園周辺でも声かけ

夜回りでの声かけは昨年1年間だけで延べ3千人、相談室に来たのは延べ300人、具体的に相談に乗ったり他の支援機関につなげるなどして手助けした人は40~50人に上る。
彼女たちが、歌舞伎町に来る理由は様々だ。マッチングアプリで知り合った男性を頼って上京した子や、動画で見た「イケメンホスト」に憧れて来た子、家庭では味わえなかった愛を探しに来たという子もいる。そんな彼女たちを、坂本さんはとがめたり、問い詰めたりはせず、そのまま受け止める。そして、今の状況から抜け出したい子がいたら、手を差し伸ばす。性感染症や妊娠、住居や生活保護、就労、ホストクラブ売掛金、薬物、ストーカーなど、どんな相談にも乗り、とことん寄り添うのが、坂本さんのスタンスだ。とは言え、「この働きを通して立ち直り、歌舞伎町を離れて普通の仕事につくのは、本当に数えるほどだ」とも言う。

汗拭きシート、ハンドクリーム、「お話を聞かせてください」と記したカードなど、アウトリーチで手渡すアイテム

しかし、うれしいケースもあった。「始めた当初からつながっていた女性から、『妊娠して、半年後に子どもが産まれる。どうしたらいいか』との相談を受けた。最初は『産まれた子は里子に出して、養子縁組で。自分はまた歌舞伎町に戻って仕事(売春)する』だった。無事出産を終え養子縁組の手続きを済ませていたが、『最後ぐらい抱っこしてあげてよ』との看護士のひと言で、彼女は産んだ子を抱っこした」
「その時に、彼女に心境の変化が起きた。『自分にも子どもにもむごいことをしているのではないか。子どもが大きくなった時に自分の出自を知ったらどう思うだろうか。自分も好きになった人と家庭を持った時、この子がいた事実を何もなかったことにして家庭を築けるだろうか。それはできないだろう…』。それで、全部白紙にして、『自分で育てる。私は二度と歌舞伎町には戻らない』と決めた。あれから3年経つが、ちゃんと生活保護につながり、自治体の母子寮にも入り、昼間にアルバイトも始めている。ものの見事に足を洗ったのです」
夜回りを始めて6年、レスキュー・ハブを設立して今年10月で4年。この活動も認知され、初期の頃は坂本さん一人だったが、今は協力者も増えてきた。東京都からの助成金も下り、これまでは昼間建設会社で働きながらの活動だったのが、「これからは、この活動一本で行けるようになった」と喜ぶ。(3面に続く)

2024年07月14日号 01面掲載記事)