共同での脚本・監督は4作目になるというタルさん(左)とシャロンさん
共同での脚本・監督は4作目になるというタルさん(左)とシャロンさん

人には、自分の生き方、自分の最期を選択する権利があるのだろうか。そんなシリアスなテーマを、ユーモアタッチに描きながらラストシーンでは感涙に誘うイスラエル映画「ハッピーエンドの選び方」が、11月28日より全国で順次公開される。同作を共同脚本・監督したシャロン・マイモンさんとタル・グラニットさんに話を聞いた。 【遠山清一】

ユーモアとシリアスで描く
自分の最期を選べるのか?

物語のあらましはこうだ。エルサレムの高級老人ホームに暮らすヨヘスケルとレバーナ夫妻。ヨヘスケルは、曜日ごとに処方された薬を配分する器械や、相手には神様の声に聞こえる電話機を作って入居者を励ますなど、生活を和ませる発明をするのが趣味。ある日、末期医療で苦しむ親友と彼の妻から、安楽死する時を自分で選択できる機械を発明してほしいと頼まれる。仕方なく、元獣医や元警察官の入居者を巻き込に用意周到に作った機械によって友人は、自分の意思で安らかに死を迎えた。ところが、秘密だった安楽死の機械の噂が、瞬く間に広がり希望者からの依頼が殺到する。そして、始めは安楽死の機械を作ることに反対していた妻レバーナは、自分が認知症になり日に日に症状が重くなるのを自覚すると、ヨヘスケルに衝撃的な依頼をする…。

昨年、悪性脳腫瘍のため半年の余命宣言を受けた米国女性ブリタニー・メイナードさんが、安楽死する意思を表明して29歳の生涯を自ら閉じた。そのニュースはが日本でも話題になったが、死期についてセンシティブな感性をもつ日本では、なぜシリアスな作品に仕上げなかったのかと気になる。

タルさんは「ユーモアタッチな作品に仕上げるのは、私たちの映画づくりのスタイルなのです。ユーモアは観客の心を開いてくれます。このような社会的問題で重いテーマであっても、心を開いてくださった観客にはスーッと入っていくことでしょう」。そして、シャロンさんも「ユーモアタッチな作品ですが、私たちは膨大なリサーチをし幾度も脚本を改稿し、テーマについて真剣に取り組みました。モラル的な問題を深く、そして複雑な形で取り扱いたかったからです。このような社会的な問題の重いテーマであっても、ユーモアタッチな作品ならば、より多くの人たちがアクセスしていただけることでしょう」という。

タルさんとシャロンさんは、黒沢明作品はじめ日本映画をとてもリスペクトしており、今回も「滝田洋二郎監督作品「おくりびと」にインスパイアされた」と語り、親日派の表情をのぞかせる。

(C)2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION.
(C)2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION.

涙あり笑いありを経て感動するのは映画の醍醐味。ヨヘスケルと妻レバーナの選択に賛同できない意見もあるかもしれない。だが、自分らしく生きるために自分の死を選ぶという問いかけは、もっとフランクに、そして真面目に語り合いましょうと提言している作品だ。

脚本・監督:シャロン・マイモン、タル・グラニット 2014年/イスラエル/ヘブライ語/96分/英題:THE FAREWELL PARTY/ 配給:アスミック・エース 2015年11月28日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://happyend.asmik-ace.co.jp
Facebook https://www.facebook.com/AsmikAceEntertainment

*Award* 2014年第71回ヴェネチア国際映画祭観客賞受賞。ヴァリャドリッド国際映画祭2014最優秀作品賞・最優秀主演女優賞(レバーナ・フィンケルシュタイン)受賞、ハイファ国際映画祭2014最優秀主演女優賞受賞、イスラエル フィルム アカデミー2014最優秀主演男優賞(ゼーブ・リバシュ)受賞・撮影賞受賞・メイクアップ賞受賞・音楽賞受賞、ロッテルダム国際映画祭観客賞ノミネート作品。