映画「FOUJITA」--画家レオナール・フジタが画家として生きた内面と戦争・罪・平和への相克描く
「パリが愛した日本人、あなたはフジタを知っていますか?」のキャッチコピーが印象的。フジタとは、1920年代フランス画壇に登場した藤田嗣治(ふじた・つぐはる、1886~1968年)。ナチ・ドイツのフランス侵攻により40年代に帰国したが、“戦争協力画”を先導した戦争責任を問われ再び渡仏、55年にフランス国籍を取得。晩年、ランスのカトリック教会で受洗し、かの地で画家の生涯を閉じた。彼の半生をテーマに置いているが、伝記的手法ではなくパリで成功を収めた1920年代と第2次世界大戦のため帰国し“戦争画家”を描き続けた1940年代にフォーカスを絞っている。静的な神秘的な美しい映像のなかに、フランスと日本。“個”を重んじるヨーロッパと、全体の協調を重んじるアジアの国という近代の受容の異なる二つの国を生き抜いたフジタの感性と内面の相克に迫る。
フジタ(オダギリジョー)は、1913年(大正2)に渡仏して10年ほどたち、日本画的技法と“乳白色の肌”と称された「ジェイ布のある裸婦」(寝室の裸婦キキ)を描いて絶賛を得てから、パリ画壇や社交界でもエコール・ド・パリの寵児として成功を収めていた。
毎日のようにカフェへ繰り出しモデルのキキ(アンジェル・ユモー)や画家たちと派手に遊びまわる。周囲がつけた“フーフー”(お調子者)という冷笑的な愛称も、外国で自分が覚えられると歓迎する。だが、成功するまで苦楽を共にしてきた妻フェルナンド(マリー・クレメール)とは、うまくいかなくなる。フジタに新しい恋人ユキ(アナ・ジラルド)ができたからだ。毎夜のように続く華やかなパーティ、よからぬ風評がたつのを気にするユキにフジタは、「スキャンダラスになればなるほど、バカをすればするほど自分に近づく。画がきれいになる」と答える。
1940年代にはいり第2次世界大戦が勃発した。パリがドイツ軍に陥落する直前、フジタは日本に帰国した。著名な画家フジタは、戦意高揚のための絵画を集めた「国民総力決戦美術展」が青森に巡回していた。フジタが描いた大作「アッツ島玉砕」は、中央に特別展示され、観覧者が手を合わせて画を拝み、賽銭箱にお金を投じていく。東京で五番目の妻・君代(中谷美紀)と暮らすフジタは、空襲が近くなり神奈川県の村へ疎開する。そこの暮らしから“日本”を発見していくフジタ。
疎開先の農家の息子で小学校教師の寛治郎(加瀬 亮)に二度目の赤紙が来た。出征の前夜、寛治郎はフジタたちに村に伝わるキツネの昔話を聞かせる。聞いていた母親(りりィ)は、寛治郎の気持ちを察し、「帰って来い! 死ぬな!」と口走る。教師への二度目の召集令状は、近づく敗戦への重たい空気を運んでいる…。
敗戦直後、フジタは画壇からただ一人戦争責任を問われた。だが、GHQが発表した戦争犯罪者リストにはフジタの名はなかった。49年(昭和24)に日本を離れ、50年からフランスに移住したフジタ。そうした戦後についてはほとんど語られず、晩年にカトリック教会の信徒となったフジタが、自らの設計しすべての装飾を手がけて建てた礼拝堂「シャぺル・ノートル=ダム・ド・ラ・ペ」のフレスコ画を映し出す小栗監督。二度の大戦と二つの国を画家として生き抜いたフジタ。スキャンダラスな行動や世の喧騒から離れ、80年の人生の心の哀しみや罪深さを懺悔して得た祈りは、今も光を放っている。 【遠山清一】
監督・脚本:小栗康平 2015年/日本=フランス/日本語、フランス語/126分/映倫:PG12 配給:KADOKAWA 2015年11月14日(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://foujita.info
Facebook https://www.facebook.com/FOUJITA.movie
*AWARD*
2015年第28回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。