映画「ローマに消えた男」--立ち止まり、自分をみつめるときを持つ大切さ
本音と建前、権謀術数渦巻く政治の世界。日々積み重なるストレスの重みに耐えかね国政選挙を目前に失踪した大物政治家。長く疎遠な関係にある双子の兄弟が、政治家の身代わりになり、哲学者や詩人の言葉を引き出し大胆な政治理念を自由に語りだす。その言葉に響く民衆。どこか閉塞感に包まれている現代人にいやしと希望を指し示すミステリアスなヒューマンドラマ。大物政治家と哲学教授の双子を演じるトニ・セルビィッロに感服。
イタリア最大の野党の書記長エンリコ・オリヴェーリ(トニ・セルビィッロ)。国政選挙を前に党の支持率が低迷している。演説会場で登壇すると、語り出す前に中年女性が「あなたの責任だ」とラテン語で激しい野次を浴びせられる。その日の夜、腹心の部下のアンドレア(ヴァレリオ・アスタンドレア)と別れた後、エンリコはローマから失踪し、フランスにいる元恋人ダニエル(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)の家族の家に転がり込む。ダニエルの夫で映画監督のムンク(エリック・グエン)もあまり気にける様子もなく、エンリコはダニエルの家族と映画の撮影現場での手伝いなどで心の安らぎを取り戻していく。
翌朝、エンリコから連絡がないため市内の自宅を訪ねたアンドレアは、ピアノの上に「戦いの前に、ひとりになる時間がほしい」と手書きした置手紙を見つける。当事務所の朝の会議でアンドレアは、「エンリコは体調を悪くして入院した。数日で戻る」と取り繕うと、急いでエンリコの妻アンナ(ミケーラ・チェスコン)と善後策を相談する。アンナ自身会ったことはないが、エンリコにはジョヴァンニ・エルナーニ(トニ・セルビィッロ)という哲学教授の双子の兄弟がいることを聞く。
一縷の望みをかけてジョヴァンニを捜し当てたアンドレアは、あまりにも瓜二つの姿に驚く。そして、エンリコが戻るまでジョヴァンニに身代わりを演じてもらう決心をした。ジョヴァンニもアンドレアについてきた時からその気があった様子。だが、姿かたちは瓜二つだが、性格は正反対。政治家然として慎重に事を進めるように話すエンリコと違い、ジョヴァンニは哲学者や詩人の言葉をふんだんに交えて自由闊達に演説し、振舞う。ジョヴァンニがエンリコの代役を演じていることを知らない直近のスタッフやマスコミは、その変りように目を見張る。さらには、民衆の関心も高まり国政選挙への潮目が大きく変わっていく…。
建前と本音、虚と実。政治の世界に限らず人の心の内面にも、そのバランスの微妙さにさいなまれ心に渦が生じるときがある。そのような出来事やストレスから距離をおくことが時には大切であることを気づかされる。「子どもの時、よく入れ替わったが一度もバレたことはなかった」と言うジョヴァンニ。そんな二人が、なぜ疎遠な関係になったのか。ダニエルは、エンリコとジョヴァンニとどちらの恋人だったのか。政治家の身代わりというテンポの良いスリリングな展開のなかで、心の奥底に押し隠していたものが現れてくるような心理ミステリーのストーリーが、この物語のこれからに心地よい余韻を味わわせてくれている。 【遠山清一】
監督・脚本・原作:ロベルト・アンド 2013年/イタリア/イタリア語・フランス語/94分/映倫:G/原題:Viva la liberta 配給:レスペ、トランスフォーマー 2015年11月14日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://romanikieta-otoko.com
*AWARD*
2013年ダヴィッド・ディ・ドナティロ賞(イタリア・アカデミー賞)最優秀助演男優賞受賞(ヴァレリオ・アスタンドレア)・最優秀脚本賞受賞作品。イラリアン・ナショナル・シンジケート・オブ・フィルム・ジャーナリスト賞最優秀脚本賞受賞作品。 2014年イタリア映画祭正式出品作品。 2015年シンユーフォリア賞国際コンペ部門トップテン・オブ・ザ・イヤー賞受賞作品。