伊藤英朗監督プロフィール:1960年愛媛県生まれ。南海放送(テレビ)ディレクター。2004年にビキニ環礁水爆実験での被ばく調査を自主学習テーマにしている高校のドキュメントを制作。以来、この事件とかかわり続け前作「放射線を浴びたX年後」を映画にまとめた。 (C)クリスチャン新聞
伊藤英朗監督プロフィール:1960年愛媛県生まれ。南海放送(テレビ)ディレクター。2004年にビキニ環礁水爆実験での被ばく調査を自主学習テーマにしている高校のドキュメントを制作。以来、この事件とかかわり続け前作「放射線を浴びたX年後」を映画にまとめた。 (C)クリスチャン新聞

米ソを中心に東西の冷戦構造がしのぎを削っていた1950から60年代に約2千回に及ぶ核爆発実験が行われ、膨大な量の放射線物質が大気圏に放出された。日本全土はもちろんアメリカにも降り注いだ放射性物質。アメリカが54年(昭和29)3月1日にマーシャル諸島ビキニ環礁で行った水素爆弾「ブラボー」は、広島に落とされた原子爆弾に比べ1千倍を超える破壊力を持ち、百六十キロ以上離れた海域で操業していたマグロ漁船第五福竜丸の乗組員23人全員が被ばくした。その事件以後60年が経ち、第五福竜丸だけが被ばく漁船であった印象を持つが、当時は年間1千隻程度の漁船が操業しており核実験で被ばくした漁船と漁師船員がほかにも多数あった。前作のドキュメンタリー映画「放射線を浴びた[X年後]」(2012年)では、高知船籍の実態と日本全土を覆った放射線の影響を追っている。11月21日から公開される本作の「放射線を浴びた[X年後]2」は、東京で広告代理店を経営する川口美沙さん(59歳)が前作を見てマグロ漁船の船長だった父も被ばく者だったのではないかと、36歳でのその死に疑念を抱き故郷の室戸漁港で当時の状況を聞き取り調査し、語られぬまま隠されてきた放射線汚染と被ばく者の真相に迫っていく。では、ほとんど語られなくなっているビキニ環礁水爆実験での被ばく状況の解明を呼びかけているのか、テレビ番組シリーズの制作から2本の映画にまとめた伊藤英朗監督(南海放送ディレクター)に話を聞いた。

*映画「放射線を浴びた[X年後]2」のレビューは下記サイトへ*
https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=5876

――高校教師と高校生たちが高知船籍の被ばく状況を聞き取り調査しているルポを、04年から取材しシリーズ番組にした成果が前作のドキュメンタリー映画になりましたが、本作の川口美沙さんのような聞き取り調査をするような協力者が出ることは番組や映画を作る当初からの願いでしたか。
伊東 はい。そう願って、番組や映画の上映会などで全国の地元の漁港での聞き取りやインターネットでの公開されている公文書資料の収集などに協力いただきたいと呼びかけていました。だが、実際に立ち上がってくださったのは、唯一川口さんだけです。インターネットなどに公開されている公的資料を調査してくださる方が、ぜひ起こされてほしいです。
04年以降、毎年1本は番組を作ってきましたが、批判さえ寄せられないほど全く反応無しでした。それが変わったのは、残念なことですが11年3月11日の福島原発事故でした。「放射能ってなんだ? 放射線被ばくってどうなるんだ?」と関心が高まり、前作の映画にまとめました。

かつて漁師だった人たちに聞き取りをする川口さん(右) (C)南海放送
かつて漁師だった人たちに聞き取りをする川口さん(右) (C)南海放送

――それにしては、チェリノブイリやフクシマ原発事故との比較検証などは一切なく、60年前のビキニ環礁核実験での被ばくの実態と影響に絞られていますね。
伊東 フクシマ原発事故は現在進行形です。賛否両論がいろいろあって誰も結論づけられません。だが、ビキニ環礁は核爆発実験ですから、世界中に数多くのモニタリングポイントが設定されていたし、当時は機密だった放射線汚染の詳細な記録や報告書が、いまは公文書として開示されています。直後にどうだったか、5年後、10年後にどのような影響だったのか、環境汚染や被ばく者の致死率なども解明でき、その対応を見いだせる可能性もあります。60年前に被ばくした出来事だったで終わるのではなく、その[X年後]はどうだったのかの調査はこれから明らかにされるものです。
「知りたくない」「忘れたい」という心情もあるかもしれません。だが、「分からないということは、無いということ」という論理が、一番の問題になると思います。いつかフクシマのことも「無い」ことにされかねません。

――当時の水爆実験による影響は、ビキニ環礁事件=第五福竜丸に矮小化され、被ばくについて語られなくなっています。このドキュメンタリー映画をどのような人たちにぜひ見てもらいたいと願っていますか。
伊東 第五福竜丸事件(3月)当時、放射線に汚染されたマグロや魚の水揚げが問題になり5つの漁港で放射線量を測り廃棄処分などの対応を取りましたが、その年の12月には安全宣言が出され測定しなくなりました。フクシマ原発事故でも同じようなスパンで政府は収束宣言を出している。どこか似ている進行状況に思わされませんか。
52年(昭和27)に行なわれた水爆実験では、日本よりもアメリカのソルトレイクでの放射線量の測定値が高かった。でも、当時はアメリカは把握していたけれど公表しませんでした。ビジネスのために(実験が)行なわれていく。私は、第2の父のように慕っている向井恒夫牧師(日基教団砥部教会元牧師、現在は隠退教師)に「アメリカにはクリスチャンが多いのに、なぜ悪いことばかりするのでしょうね」と聞いたら、「人間には計り知れないことです」とのお答えでした(笑)。でも、アメリカのクリスチャンの方々には、ぜひ見ていただきたいですね。

--ありがとうございました。

映画「放射線を浴びた[X年後]2」
監督:伊東英明 2015年/日本/90分/ドキュメンタリー/ 配給:ウッキー・プロダクション 2015年11月7日(土)より愛媛:シネマサンシャイン大街道、11月21日(土)より東京:ポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://x311.info/part2/