宗教法人小牧者訓練会(国際福音キリスト教会、本部・茨城県つくば市)の主任牧師、卞在昌(ビュン・ジェーチャン)氏から性的な行為を強要されたとして、同教会の献身者だった4人の女性が卞氏と教団らを相手取り起こした損害賠償請求訴訟につき、最高裁判所第3小法廷は6月14日付で、卞氏及び小牧者訓練会の上告を棄却した。これにより、卞氏によるセクハラ行為を認定して、1540万円の支払いを命じた1審・東京地裁の判決が確定した。同時に、卞氏らが、女性献身者らの虚偽の主張により名誉を毀損されたとして求めた損害賠償請求、および元男性信者が卞氏らから受けたと主張したパワハラ被害の損害賠償請求に関しても、同法廷は上告を棄却。名誉毀損、パワハラを認定しなかった一審判決が同様に確定した。

これを受け、裁判の支援を続けてきた「モルデカイの会」(加藤光一代表)は、6月20日記者会見を開催。加藤氏、坂本兵部氏(日本基督教団葦のかご教会牧師)、原告側代理人の齋藤大弁護士、沖陽介弁護士、同じく被害者支援を続けてきたFOE(Faith Of Esther)代表の毛利陽子氏、原告女性1名が会見に臨んだ。

モルデカイの会は、声明文「民事裁判の判決確定を受けて」を発表。1審判決が確定した意義を「原告4名が長期間にわたり反復継続して不法行為(セクハラ)を受けてきた事実が認められ、ビュン個人と教団に賠償責任を課した判決が確定したこと」とし、「 第1審判決は、多くの客観的証拠をもとに、ビュンのセクハラ行為を原告らの性的自由および人格権を侵害した違法な行為と認め」「権威主義的教会運営が事件発生のメカニズムであると断定して、それを許した教団の風土を明確に弾劾」したとしている。また、国際福音キリスト教団に対しては、「セクハラ裁判で敗訴が確定したにもかかわらず、ビュンが主任牧師として今もなお教団にあって主日礼拝で説教を語っていることは、私たちにとって理解しがたいことです。国際福音キリスト教団は、今回の最高裁決定(第1審判決の確定)を真摯に受け止め、事実を率直に認めて教団として公に謝罪したうえで、『ビュンを解任し教団として再出発を図る』べきであります。そのように教団内部の自浄機能を働かせてキリスト教界の中でけじめを付けることは、また、セクハラ被害を受けて長い間苦しんで来た原告やご家族の方々の心の癒しにつながるものでもあると確信します」とし、今後の課題として「今回の裁判が先例となって、牧師の権威を強調するあまり同じような悲劇を招いている日本の一部のキリスト教会における同種事件の被害者が広く救済され、その人権が回復されるよう、私たちはこれからも警鐘を鳴らし続けて参ります」としている。

会見に同席した原告側代理人の斎藤大弁護士は「クリスチャンの間では、教会内部の問題を外部の、それも司法の場で解決しようとすることへの抵抗が大きいと聞いている。そのような中で、法的責任を問い、その姿勢を貫いて解決を得た。同様のケースの先例となるであろうし、さらなる被害を出さないためにも、意義のある裁判だった」と語った。

また原告の心情に触れ、「目撃者のいない密室での被害を、原告側が立証しなければならず、週報、予定表、メールなど客観的証拠を積み上げ、第三者の証言を積み上げることで裁判所の心証を得ることに成功したが、被害者は、克明な証言をするために、それを具体的に思い出す必要があり、その作業は辛く、心理的な苦痛を伴った。それを乗り越えての結果だった」とした。

また、本件とは別に先に卞氏の無罪が確定した刑事訴訟に触れ、「刑事事件では、特定の場所と日時において発生した1つの行為に対して罪が問われたのであり、ビュン氏がその日時、その場所にいなかった可能性を否定できない、として『疑わしきは被告人の利益に』との原則が適用されたための無罪であり、本民事訴訟では、70件に及ぶ被害が認定されている。いまだにビュン氏が、刑事事件の無罪をもってセクハラ行為そのものを否定しているのは、憤りを超えて呆れてしまう」と語った。

また、宗教的環境の中で起きた本件の特殊性につき裁判所が「マインドコントロール」を認めたことにつき、「今回の被害者はすべて成人で、長期にわたり似たような被害を受けながら、教会の場で加害者に日常的に接触し、親和的態度さえ見られることからも、第3者からは同意が存在したように見えてしまう。内実を知らずに話を聞かされたら、多くの弁護士は、その行為には同意があったのだろうと考えるし、それは警察も同じ。なぜ同じ被害を受けながら、被害者は加害者に対して親和的な態度をとり続けるのか。そこの心理学的解明ができ、認定された。心理学者の証言には、マインドコントロールという言葉は出てはこないが、教えるものと教えられるものの関係、宗教的な立場の違い、『先生に近づけるように頑張る信徒』という関係の中で被害が続き、被害を被害として受け止めにくい心理的状況が生じていた、と鑑定された。それを、マインドコントロールという言葉を用いて裁判所が被害を認定した。これは、似たケースでの判断に資することになり、弁護士や警察の対応も変わるだろう。ここまでやって最高裁まで行って被害を認定する判決が出たということは重要」とその意義を強調した。

被害者で、原告の一人である女性は、コメントを読み上げた。「今まで話してこなかったが、最後に自分の言葉で伝えたいと思った」「主張が認められ、真実が明らかにされたことを、心から喜び、安堵している。支えてくれたすべての人に感謝する」「8年前の被害の後、神様からエステル記をとおして、沈黙してはいけないと、使命が与えられた」「いまだ悔い改めようとしない教団を許せないでいる自分に気づくとき、心の葛藤を覚える。しかし、彼らが悔い改めなくても許す、と告白したとき、すべての鎖から解き放たれ、本当の自由が来た」「今は世の終わりの時。悔い改めよ、と警告されている。教団が罪を真摯に認めて悔い改めることを心から願っている」「私のような被害がこれから起きないように願う。他の教会にも私のような被害を受けた人がいるなら、勇気を出して誰かに相談してほしい。神は助けてくれる。痛み苦しみは祝福に変わると心から信じている」

他の原告被害者について加藤氏は「みな教団を離れた後、教会はそれぞれ行き先を見つけており、神様から離れていない。それが私たちにとっての救い」と語った。

沖弁護士からは、損害賠償金について、最高裁判決前に全額回収されている、との報告があった。

被害認定がされなかったパワハラ訴訟について斎藤弁護士は、「パワハラの証拠として提出したメールでのやり取りが、その全部ではなく一部分だったため、裁判所が『メールは全容が必要』と、その証拠価値が認められなかったことが、一番大きな要素。消えて保存されていないものあり、全部は物理的に出せなかった」と語った。

国際福音キリスト教団の体質について、8年前まで教団に15年おり長老も務めていた加藤氏は、「主任牧師の権威を、”神からの権威”とし、主任には逆らえない。それが今も続いているようだ」とし、礼拝で今も説教を語っているビュン氏について、「判決を真剣に受け止めていない」と批判した。

加藤氏とともに裁判を支援してきた坂本氏は、「教会内部の問題でも、声を上げることが必要。パワハラ裁判も、原告の主張が認められなかったとはいえ、裁判の過程で教団の関連会社の不明朗な部分を明らかにすることにもなり、セクハラ裁判にも寄与した。問題を公にすることを良しとしない考えが日本の教会にはまだある。刑事裁判で、教団側を積極的に擁護した牧師たちもいる。彼らは今回の決定を受けて、自らの立場を説明する責任がある」と語った。

被害者支援を続けてきたFOE代表の毛利氏は「支援してきた人たちとは、被害者というよりは、友達として連絡を取り合っている。私たちにまだできることがあるか、今後この会をどうするかは、検討した上で判断する」とした。

また加藤氏も会の今後に触れ、「モルデカイの会のホームページは、その資料の保存も含めて、記録として残さないといけない。教団側が新たな声明を出す可能性もあり、その対応も含めてニュースレターも出したい」と語った。

一方、国際福音キリスト教会はホームページ上に代理人(三木祥史弁護士ほか)名により、「今回の一連の件は、ビュン氏としては全く事実無根の事であり、民事の判決が確定したとしても、真実は何かという点においては変わりはない」とする声明文を掲載している。