鍋島記者(右)は、原発の専門家への取材をとおして現状の分析と最悪の危機敵情を聞かされる。 (C)「太陽の蓋」プロジェクト/ Tachibana Tamiyoshi
鍋島記者(右)は、原発の専門家への取材をとおして現状の分析と最悪の危機敵情を聞かされる。 (C)「太陽の蓋」プロジェクト/ Tachibana Tamiyoshi

東日本大震災での大津波浸水による電源喪失し、原子炉を冷却できずメルトダウンした福島第一原発事故。その当時、何が起こり、どのように対応したのか。今年の6月16日に、東京電力(東電)自らが招へいした“福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会”による「検証結果報告書」では、(当時の)首相官邸関係者らに対する調査は不可能としながら、“炉心溶解”“メルトダウン”の事実を官邸側からの指示により隠ぺいしたと推定している。本作は、依頼者・東電側の立場を擁護する推定的結論とは異なる経緯が展開していく。計らずもタイムリーな時期の公開となったその5日間を追った“ジャーナリスティック・エンターテイメント”ドラマ。東電側の第三者検証委員会の推定と本作との大きく異なる事実認識をしっかり見つめたい。

【あらすじ】
2011年3月11日午後2時46分、太平洋三陸沖を震源としてモーメントマグネチュード9.0の大地震が発生した。政府は地震発生から31分後の15時14分に、史上初の緊急災害対策本部を設置。大津波、液状化、建造物倒壊など、東北の岩手県、宮城県、福島県の3県、関東の茨城県、千葉県の2県を中心とした被害状況が対策本部に集まる。津波が浸水した福島第一原発は、全電源喪失。冷却装置を失った原子炉は、温度が上がり続けメルトダウンが予想される事態に陥るが…。

福島原発から電力が供給されていた東京も交通機関は動かず大混乱が生じていた。各社の記者クラブも情報収集に奔走する。東京中央新聞の鍋島記者(北村有起哉)は、時間が経つにつれ政府の福島原発の状況に関して疑念を抱くようになる。政府関係者はもちろん元原発関連の職員、研究者らにも情報収集を進めていく。

菅直人総理大臣(三田村邦彦)が指揮する緊急災害対策本部に、東電からの福島原発の状況はあまり上がってこない。日本の原発の安全神話が崩壊する、想定外の状況を前に、判断を誤る科学者たち。また、総理官邸ではその対応に追われるも、情報不足のまま混乱を極めていた。一方、必死に電源確保策、原子炉の冷却方策を試みる第一原発の現場職員たち。命懸けで作業する700人の作業員の中には、地震発生時には非番で実家にいたが家族の反対を押し切って津波が去った第一原発に戻ってきた俊一(郭 智博)の姿もあった。

菅総理(中央)はじめ当時の閣僚らが実名で演じられる”ジャーナリスティック・エンターテイメント” (C)「太陽の蓋」プロジェクト/ Tachibana Tamiyoshi
菅総理(中央)はじめ当時の閣僚らが実名で演じられる”ジャーナリスティック・エンターテイメント” (C)「太陽の蓋」プロジェクト/ Tachibana Tamiyoshi

日本の原発の安全神話が崩壊する、想定外の状況を前に、判断を誤る科学者たち。打つ手がないまま、残酷に時間だけが過ぎていく。そして地震発生の翌日3月12日午後3時36分、1号機の原子炉建屋で水素爆発が起こる。立て続けに3号機、2号機でも連鎖するように起こる異変。そして、実際の被害者は故郷に別れを告げ避難を急ぐ市民たちだった。東京の駐在の外国人ビジネスマンらにも本国からの避難勧告が届く。日本は、最悪の危機を迎える…。

【見どころ・エピソード】
3・11東日本大震災と福島第一原発事故に当時の首相官邸ではどのよう対応したのか。関係者の著書や調書などを丁寧に取材分析した出来事のノンフィクション部分と、鍋島記者と家族など官邸外の人々のドラマ(フィクション)を対比した構成は、忘れつつあったあの日のリアリティと緊張感をみごとに呼び覚ましてくれる。東電自身が設置した第三者検証委員会の報告に比べれば、首相官邸側に立った視点で推移が語られている。それは、菅直人内閣総理大臣(三田村邦彦)、枝野幸男内閣官房長官(菅原大吉)、福山哲郎内閣官房副長官(神尾佑)、寺田学(青山草太)ら当時の閣僚らを実名で俳優が演じていることからも事実認識についての自信が窺われる。だが、同じ民主党の野田政権下で翌年には関西電力の関電の大飯原発3号、4号機の再稼働が宣言された。いま自民党政権のもと原発再稼働は、勢いを増して認可され福島第一原発事故の経験、危機意識は風化されつつある。“それではいけない”という、製作者の警鐘が痛いほど伝わってくる。 【遠山清一】

監督:佐藤 太 2016年/日本/130分/映倫:G/ 配給:太秦 2016年7月16日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://taiyounofuta.com
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