キリスト者有志が「『共謀罪』法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志の声明」発表
「共謀罪」(テロ等準備罪)が参議院で審議される中、キリスト者有志は6月8日、「『共謀罪』法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志の声明」を発表した。声明は以下の通り。
「共謀罪」法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志の声明 2017 年6月8日
2017 年6 月8 日私たちは、今般の「組織的犯罪処罰法」改正案(いわゆる「共謀罪」法案)に反対し、廃案を求めます。この法の問題点について次のとおり指摘が相次いでいます。第一に、政府はこの法案が成立しなければ「テロ対策」を目的とするTOC 条約(組織犯罪防止条約)を批准することができないと説明していますが、TOC 条約はテロ対策の条約ではないうえ、新たに共謀罪を創設しなくてもTOC 条約を批准することは可能であることが国際法の専門家らの指摘により明らかになりました。つまり、政府の説明は誤っているということです。政府が国民の代表者である国会議員に対し誤った説明をしつつ刑事処罰の法律を成立させるということは、民主主義のルールに反しています。
第二に、政府はこの法案について「組織的犯罪集団」による対象となる犯罪の「計画」「準備行為」がなければ処罰できないのだから問題はないのだ、と説明しますが、何ら犯罪行為が行われていなくても処罰を許すものであることから、処罰範囲がいくらでも広がりかねないということです。今の法律のもとでは、実際に犯罪を実行して初めて処罰されるのが原則ですから、「何が犯罪で何が犯罪でないか」がそれなりにはっきりしています。しかし、「共謀罪」が導入されれば、何も「悪いこと」を実行していなくても処罰されてしまいます。政府は対象となる犯罪の「計画」と「準備行為」がないと処罰できないから問題ないと説明していますが、言葉に依拠する「計画」自体を犯罪にすると、悪意ある密告や潜入捜査員の報告で「犯罪の共謀」があったとされ、預金の引き出しが「犯罪資金の調達」、散歩が「犯行の下見」とみなされ処罰されるなど、処罰される範囲に客観的歯止めをかけるのが極めて難しいのです。そのため、どんな人たちのどんな言動や行動が処罰の対象になるのか明らかではなく、市民は何が処罰されるかどうかわからないので、怖くて自由に話し行動することはできなくなってしまいます。
第三に、他人に全く危害を与えていない、処罰しなくてもよいことを処罰してしまうことになり、刑法の行為処罰の原則に反するということです。これは長い歴史を持つ刑事法の基本原則を覆すものです。
第四に、「共謀罪」は犯罪が実行されていなくても、「共謀」という目に見えない人と人とのコミュニケーションそのものを処罰するものであることから、処罰できることが広がることで、捜査機関が共謀罪の「捜査」として、人々がどこにいるのか、電話、電子メール、インターネットへの書き込みなどの日常的なやり取りを監視したり、組織に潜入捜査員を送り込んだり仲間からの密告を奨励するなど、コミュニケーションそのものを監視する捜査手法が蔓延することにつながります。
第五に、こうした政府による監視・処罰範囲の拡大は、人々が信じていることを表明したり、それに基づいて行動したりすることに恐れを生じさせます。これは、あらゆる思想・良心の自由、信教の自由、集会・結社・言論・出版・表現の自由などの基本的人権が侵害されることを意味しますし、基本的人権の保障に欠かせない市民の政治参加、民主主義を破壊することになります。
第六に、この法案が、かつての「治安維持法」の再来となるのではないかという危惧を持っています。治安維持法は戦前、国家による思想弾圧、宗教弾圧を実行した「悪法」です。当時共産主義国であったソビエト連邦との国交樹立と男子普通選挙制度が導入された1925年に成立した治安維持法は、共産主義を危険思想とみなし、何らの犯罪行為を行っていなくても共産主義思想のために団体を作ること自体を処罰するために立法されました。「ある思想のために団体を作る」という人々の思想良心・表現・コミュニケーションそのものを処罰するのが治安維持法の本質でした。その後、検挙対象は拡大の一途を辿り、治安維持法が「改正」され死刑が科されるようになるなど、罰則も厳格化されていきました。そこでは治安維持の名目上、「国体」に反する思想の持ち主とされれば、監視、逮捕、拘束が行われ、個人の内面に踏みこむ、苛烈な思想取り締まりが行われたのです。
治安維持法下にあって、キリスト教会も様々な弾圧を経験した歴史を持っています。逮捕、拘束はもちろんのこと、拷問のような取り調べによって獄死した牧師たちもおりました。1942 年6 月のホーリネス系教会に対する一斉弾圧はその最たるものです。
共謀罪法案は、「一般人」を対象としたものではないと言われますが、治安維持法も成立当時は、一般人は対象にならないと宣伝されていました。私たちキリスト者は、戦前の治安維持法による弾圧を思い起こし、人と人とのコミュニケーションそのものを処罰の対象とする先に述べた共謀罪法案が人々に与える恐怖と、プライバシーやコミュニケーションや行動の自由の侵害が、キリスト者がイエス・キリストを主と信じかつ告白し、キリスト者が互いに祈り、分かち合い、交流し、集まり、教会を形成し、主イエス・キリストの福音を宣べ伝えるということにも例外なく及んでいくことを危惧しています。その結果として起こるのは、自由に語り合い、自由に助け合い、勇気をもって自分の意見を述べ、互いの違いを理解し尊重する社会の破壊であり、それによって失われるものの大きさははかりしれません。共謀罪法案審議に見られる法務大臣をはじめとする政府の答弁の稚拙さと強引さは、議会の軽視であり、民主主義国家としての危機を感じざるを得ません(法務大臣は参議院での審議において、治安維持法による処罰は適法であったという、おそるべき答弁をいたしました)。さらに、ここ数年の現政権の憲法軽視の姿勢、法の支配や立憲主義への無理解、強権的な政治手法、政治の私物化の動きを見るにつけ、現政権下でこのような法案が扱われることの危うさを深く憂慮します。そして自分の尊厳をかけて声を挙げる人々を、力で抑え込んでいこうとする動きに強い懸念を覚えます。
私たちは以上の理由によって、「共謀罪」法案に反対し、廃案を求めます。
「共謀罪』法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志・呼びかけ人は、青木有加、朝岡勝、安海和宣、伊藤朝日太郎、井樋桂子、大澤恵太、大嶋重徳、岡山英雄、奥野泰孝、片岡謁也、片岡輝美、加藤光行、上中栄、金井創、金井由嗣、川上直哉、キスト岡崎さゆ里、木田恵嗣、木村庸五、坂元俊郎、佐々木真輝、柴田智悦、清水晴好、鷹巣直美、髙橋和義、武安宏樹、徳永大、野田沢、袴田康裕、福田崇、藤原淳賀、星出卓也、三浦陽子、宮崎誉、南野浩則、山口陽一、山崎龍一、山本陽一郎、油井義昭、弓矢健児、吉川直美、吉髙叶の各氏ら42人(6月8日現在)。6月13日に参議院議員会館会議室で記者会見を行う。
キリスト者有志らは、廃案に向け、さらに有志を募り議員要請行動で声を届け、国会傍聴などを行う。また牧師、信徒、キリスト教信仰の有無を問わず、賛同者を募っている。賛同はウェブサイトから。URL http://kyoubouzaijesus.blogspot.jp/ Eメールnokyoubouzaiyesjesus@gmail.com