監督:重江良樹(しげえ・よしき) 1984年、大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作会社勤務を経てフリー。2008年に「こどもの里」にボランティアとして入ったことがきっかけで2013年より撮影し始める。本作が初監督作品。 (c)stjclord4
監督:重江良樹(しげえ・よしき)さん
1984年、大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作会社勤務を経てフリー。2008年に「こどもの里」にボランティアとして入ったことがきっかけで2013年より撮影し始める。本作が初監督作品。 (c)stjclord4

大阪市西成区の通称“釜ヶ崎”にある「こどもの里」。1977年にカトリック教会の修道会による「子どもの広場」からスタートした。開設当初から働いている荘保共子館長は、子どもたちだけでなくスタッフからも“デメキン”の愛称で呼ばれている。いじめや児童虐待など痛ましいニュースがあふれている世相のなかで、「こどもの里」は地域の子どもたちの居場所であり大人たちにとっても何かしんどい時には逃げ込める“港”でもある。はじめはボランティアとして関り、7年後に初ドキュメンタリー作品を完成させた重江良樹さんに話を聞いた。

「こどもの里」は、通いの子が来る学童保育事業。遊び場であり、親や子どもの自身の依頼による緊急一時宿泊、児童相談所が長期的な親子分離を判断して委託するファミリーホームでもある。軽度な知的障がいを判断されていることにコンプレックスを抱えているムードメーカーの中学生の少年。自転車が大好きな発達障がいをもつ5歳の男の子。児童相談所の判断で母親とは離れて「こどもの里」で暮らしている卒業間近の女子高校生。彼ら3人を縦糸に、その家族とのつながりを追いながら「こどもの里」が主催している地域での運動会や大人たちへの子育て教室、“子ども夜回り隊”などの様子が綴られている。
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映画「さとにきたらええやん」の内容紹介は下記のURLへ
https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=9961
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映像学校の卒業作品のテーマを探して、とりあえず“釜ヶ崎”の街を歩きまわていた重江さん。すると、建物の出入り口から2人の子どもたちが勢いよく飛び出してきたと思ったら、疾風のように目の前を走って建物の中へ飛び込んでいった。その驚きが重江さんと「こどもの里」との出合いだった。引き込まれるように「こどもの里」の中に入ると、乳幼児から小・中学生ら大勢の子どもたちが遊んでいる。初対面の荘保館長に「なんで、こんなところで子どもの施設やってはるんですか?」と問いかけると、「子どもが好きやからです!」と一蹴された。その日は、閉館時間まで子どもたちと遊んだ。その日から、映画を撮ることも考えずに5年間ボランティアとして「こどもの里」に通った。

ボランティア活動で荘保館長やスタッフ、「子どもの里」に通ってくる子どもたちとその親たちとも心根が通じてきた。テーマ探しで出合った場所だが「映画を撮る気ありませんでした。映画熱よりも居心地の良さ、撮ることで変わる関係とかもありますから」。それが、5年ほどして「映画にしたらいいシーンになるかなぁ」と、カメラで撮り始めた。「『子どもの里』を伝えたいという気持ちが強かった。僕自身、ここを撮らなければ一生後悔するだろうと思った」という。

会ったこともないイエス様よりも
すぐ傍らにいる信じている人を信じる

「子どもの里」に来る子どもたちは、とにかく元気がいい。だが、その心の中には親が抱えている“しんどい”ものを感じ、自分のしんどさや寂しさとも闘っている。親たちにとっても、「子どもの里」は何かあったら相談に行ける居場所になっている。「あそこに行けば、なんとかしてくれる」という信頼が地域の人たちにある。荘保館長はスタッフはもちろん人とのつながりのネットワークを活かして真摯に対応する。

「自分の大事な場所の大好きな子たちを撮るからには中途半端にはすまい」という思いで初作品に臨んだ重江監督 (C)ガーラフィルム/ノンデライコ
「自分の大事な場所の大好きな子たちを撮るからには中途半端にはすまい」という思いで初作品に臨んだ重江監督(右) (C)ガーラフィルム/ノンデライコ

「子どもの里」はフランシスコ会ふるさとの家に始まり、守護の天使の姉妹修道会が受け継いで「こどもの里」となった。その後も釜ヶ崎キリスト教協友会、カトリック大阪大司教区が活動を支援し現在はNPOとして活動している。「“釜ヶ崎”には、いろいろなキリスト教関係の団体が支援活動していますが、いわゆる布教活動は一切していませんね。『子どもの里』も、困ったことがあったらいつでもいらっしゃいという感じです。会ったこともないイエス様よりも、すぐ傍らにいる人の方を信じますよね」という重江さん。ふと、飢えてる人、裸の者の身なりで助けを求めてやって来る者に親切にした人へのたとえ(マタイ福音書25章31~46節)が思い出される。

「子どもの里」に来る子どもたちは、よく声をかける。年長の子が年下の子どもに絵本を読んだりして優しくしているシーンがよくある。「子どもたちは、自分のしんどさが分かるから、他人(ひと)に優しくできるのかなって思います」。そんな言葉にできない気持ちを察するかのようにSHINGO★西成のラップが観る者の心に染みてくる。この初作品はどのような人にみてもらいたいのだろうか。「欲を言えば、みんなに観てもらいたいですが、絞るとしたら“しんどいな”と感じている子どもがいたら、ぜひ観てもらいたいです。極力、説明的なところは省きましたので、とにかく観ていただいただき、何かが引っかかって感じたり、元気になってくれたらうれしい」と重江監督は願ってる。 【遠山清一

<映画「さとにきたらええやん」>
監督:重江良樹 2015年/日本/100分/ドキュメンタリー/16:9/DCP/ 配給:ノンデライコ 2016年6月11日(土)よりポレポレ東中野、第七芸術劇場ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.sato-eeyan.com
Facebok https://www.facebook.com/satoeeyan777

重江良樹監督《トークイベント》(6月7日現在の予定。このほか多数調整中)
東京:ポレポレ東中野(連日:12:20/14:40/18:50 より上映)
・6月11日(土)12:20/14:40 各回上映後/荘保共子さん(こどもの里館長)、重江良樹監督
・6月12日(日)12:20/14:40 各回上映後/杉村敏枝さん(こどもの里職員)、重江良樹監督
・6月14日(火)18:50の回上映後/杉山春(ルポライター)、重江良樹監督
・6月17日(金)18:50の回上映後/小谷忠典(映画監督)、重江良樹監督
・6月18日(土)12:20の回上映後/汐見稔幸(白梅学園大学学長)、重江良樹監督
・6月21日(火)18:50の回上映後/仁藤夢乃(女子高生サポートセンターColabo代表)、重江良樹監督
・6月23日(木)18:50の回上映後/井上仁(日本大学日本大学文理学部社会福祉学科教授)、重江良樹監督
・6月24日(金)18:50の回上映後/稲葉剛(NPO法人もやい代表)、重江良樹監督
・6月26日(日)12:20の回上映後/西野博之(NPO法人フリースペースたまりば代表)、重江良樹監督