(C)gullane
ヴァイオリン演奏のセンスが良く真面目なサムエル(左)と、ギャングに借金して一儲けしようとするVR(右)だが、二人は不思議と気が合う (C)gullane

スラム街の子どもたちが、音楽の才能に芽生えて合唱やソリストとして夢を追い、人生を拓いていく物語は数多くある。映画としてそのストーリー展開が予測できたとしても、やはり生きる勇気と希望が与えられる。ブラジル・サンパウロ市最大のファヴェーラ=貧民街=エリオポリス地区に実在するクラシックの交響楽団が誕生するまでを描いた本作には、音楽が一人の人生を勇気づけるだけでなく、その一歩一歩が暮らしている社会を壮大な合奏の世界へと変える力を発揮する事実を教えてくれる。

【あらすじ】
かつては神童と呼ばれたヴァイオリニストのラエルチ(ラザロ・ハーモス)だが、スランプに陥り苦しんでいた。この日もサンパウロ交響楽団の最終審査で、緊張のあまり指が動かなくなり演奏することもできなかった。期待している両親にはその事実を打ち明けられず、四重奏楽団の仕事でツアーに出ていると言っている。

実際、四重奏を組んではいるが、いらだちを仲間たちにぶつけ仲間の一人が去っていった。生活のため、NGO団体の紹介でファヴェーラにある高校の合奏団の指導に応募したラエルチ。だが、アジーラ校長(サンドラ・コルベローニ)に案内された練習場所は、校庭の一角に金網で仕切られた屋外だった。生徒たちも楽譜は読めず、楽器の持ち方弾き方も適当。練習の途中だが、携帯に出たりケンカが始まったり、コンビニへ買い物に行こうとする者までいて愕然とする。それでも、給料を前払いするからとアジーラ校長に説得されしぶしぶ引き受けるラエルチ。

ある夜、ラエルチは二人組の男に呼び止められる。ちょっとしたトラブルで「警察を呼ぶぞ」と声を荒げたことに「この街を仕切っているのは俺らのボス、クレイトンだ」因縁を付けられた。そして、拳銃を突き付けられ「ヴァイオリンを弾いてみせろ」とすごまれる。みごとな演奏で二人を黙らせたラエルチ。翌日、ラエルチがクレイトンの手下を演奏で追い払ったことは生徒たちにも噂になり一目置かれる。その中には生徒たちの中ではヴァイオリン演奏に秀でているサムエル(カイケ・ジェズース)もいた。だが、サムエルは父親からヴァイオリンの練習など役に立たないと、仕事を手伝わされる。そんなサムエルの練習場所は、クレイトンの手下から借金しているクラスメイトのVR(エウジオ・ビエイラ)の部屋だ。

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生徒たちに音楽の素晴らしさを教えながら、自らも演奏者としての実力を切り開こうとチャレンジするラエルチ (C)gullane

ある日、ラエルチはクレイトンに呼び出された。娘の誕生パーティでタンゴを演奏しろと命じられる。まだ未熟だなどまともな理由など通じない世界。ラエルチは、借金を取り立てられているVRのトラブルが解決しないと難しいと答える。手下のことならと調整に乗り出すクレイトン。音楽を演奏したいという思いが芽生えてきた生徒たちを、ギャングから守りながら生徒たちの才能をどうやって伸ばしていくか。ラエルチは、演奏者としてのチャレンジをしながら、生徒たちの存在が心の中に息づき始めている。

【みどころ・エピソード】
8月5日からブラジルでのリオ・オリンピックが開催される。そこでも治安とファヴェーラの存在が懸念されている。学校ではクラシックを練習しても、夜になれば酒場でラップミュージックに青春を発散させる生徒たち。警察が絡んで事件が起これば一触即発の暴動へ発展する。そうしたファヴェーラの雰囲気は、なんともリアルだ。貧しさと悪への誘いに日々絡まれて、希望の光を見いだせないファヴェーラの子どもたちに、交響楽というクラシック音楽がどれだけの勇気と努力の源になったかが、熱く伝わってくる。 【遠山清一】

監督:セルジオ・マチャド 2015年/ブラジル/103分/映倫:PG12/原題:Tudo Que Aprendemos Juntos 配給:ギャガ 2016年8月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://gaga.ne.jp/street/
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan

*Award*
2015年:第68回ロカルノ映画祭クロージング作品。第39回サンパウロ画映画祭観客賞受賞。 2016年:第45回ジッフォーニ国際映画祭「Generator +16部門」最優秀作品賞・「勇気ある生き方」賞受賞作品。