映画「トレジャー オトナタチの贈り物」--格好つけ親父のお宝さがし世話人情噺
親子3人家族の家にある日、隣家の失業中の男がやって来てお金を貸してほしいと無心する。その男の曾祖父が所有していた実家の庭にお宝が埋められているので掘り当てたら半分くれるという。半信半疑ながら息子のヒーローになりたいと思っていた父親は、お金に困ってる男の誘いに乗って宝探しに乗り出す。いつ、どこで幸運をつかめるかは分からない。ちょとした人間の欲と宝物が絡む現代ルーマニアの世話人情噺のようで、しゃべりの間や所作にもくすぐられる。
【あらすじ】
ブカレルトの公務員コスティ(クジン・トマ)は、妻ラルカ(クリスティナ・トマ)と6歳になる息子アリン(ニコディム・トマ)の3人家族だが、車のローンなどに追われ生活は慎ましい。息子のアリンには、自分が正義の味方ロビンフッドの化身であるかのように毎晩その物語を読み聞かせている。だが、アリンは「パパはロビンフットなんかじゃない」と覚めていて、コスティの心意気をしぼませる。
ある晩、隣家のアドリアン(アドリアン・プルカレスク)が、コスティを訪ねて来て800ユーロ(1ユーロを114円とすると91,200円程度)貸してほしいと無心する。失業中で家のローンが滞納していて追い出されるかもしれないという。そこで思い出したのが、共産党が台頭する前に曾祖父が所有していた故郷の実家の庭にお宝を埋めて隠したと言っていたこと。そのお宝を掘りだすため金属探知機を借りる資金を貸してくれれば、掘り当てたお宝の半分はくれるという。コスティは、ライカの父親に借金を無心できないかと話を持ち掛けて気まずい空気が漂っていたこともあり、この胡散臭い話に乗ることにした。
金属探知機を操作してくれるコルネイ(コルネイ・コズメイ)との交渉もまとまり宝探しに取り掛かるが、お宝がお金なのか、宝石なのかも分からない。もし、古い貨幣が出てくると国有財産になるため警察に届けなければならないリスクもある。金属探知機を持ってきたコルネイは約束より1時間遅れ。しかも様々な物に敏感に反応する金属探知機に手こずり、イラついてきたアドリアン、コスティ。3人のオジサンたちは、ちょっとドタバタしながらも警察に見つからないよう庭を掘り繰り返す…。
【みどころ・エピソード】
コルネリュ・ポルンボユ監督は、アドリアン役のアドリアン・プルカレスクの曾祖父がるマニアの国有化前に全財産を埋めたという実際の話を聞いて作り上げた大人のロマンを誘うコメディ。物語の前半、コスティの家族との会話や上司とのやり取りなどでルーマニア経済の不況な状況が浮かび上がってくる。コスティ役のクジン・トマはプロの俳優だが、妻と息子は実際の家族で俳優ではない。息子が父親をヒーロー視していないツッコミや義父に借金を無心しようとして妻との間に微妙な空気が流れるリアルな雰囲気は絶妙。金属探知機業者のコルネイも本職で機械を扱っているが、プロの俳優ではない。家族や関わってくる人たちとの話題は、暗いムードの内容なのに会話のテンポや間などは世話人情噺のようで、宝物を掘り当てて一発逆転を狙いたくなる気分に引き込まれていく。
エンドロールに流れる主題歌にユーゴスラビア出身のインダストリアル・メタルバンド“ライバッハ”が演奏する「Opus Dei」(LIFE is LIFE)が使われているのも強く印象に残り心憎い。「Opus Dei」とはラテン語で“神の業”の意。切羽詰まって宝探しに力を使い果たしたコスティは、どのような神の業を感じ取ったのだろうか。 【遠山清一】
監督・脚本:コルネリュ・ポルンボユ 2015年/ルーマニア=フランス/ルーマニア語/89分/映倫:G/原題:COMOARA 英題:THE TREASURE 配給:ファインフィルムズ 2016年9月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー。
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/treasure/
Facebook https://www.facebook.com/映画トレジャー-オトナタチの贈り物-736640189772316
*Award*
第68回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」ある才能賞受賞。第53回ニューヨーク映画祭正式出品。第51回シカゴ国際映画祭作品賞ノミネート。第37回カイロ国際映画祭脚本賞受賞。第10回GOPO賞(ルーマニア・アカデミー賞)5部門ノミネート作品。