(c)PATHE - ER PRODUCTIONS - EAGLE PICTURES - INDIA TAKE ONE PRODUCTIONS with the participation of CANAL + and CINECINEMA A Jon KILIK Production
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「和平は暴力的な力からではなく、’教育と愛’から育まれる希望と信念」。そのような使信が届いてくる実話から生まれた物語。同名の原著者でジャーナリストのルーラ・ジブリール自身が経験し、取材を通して出会った人々の実話を元にした同著を、彼女が脚本として再構成し書きあげている。登場人物の名前や幾人かの事物と出来事を一人の人物として脚色してところもあるだろう。だが、実際に起こったこと、経験したことから創出されたメッセージが厚みがあり、人間が戦争・動乱のうねりの中でどのような事柄に視点を置き、意志をもって生きていくのかが強く伝わってくる。

パレスチナに生きたヒンドゥ・ホセイニ(ヒアム・アッバス=写真右下)の葬列から物語は始まる。国連が1947年11月にパレスチナをユダヤ国家、アラブ国家、エルサレムの3分割案を可決しことから激化したパレスチナ内乱。それまでは、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地エルサレム近郊では、クリスマスを共に祝っていた’生活’が、パレスチナ内乱からイスラエルの独立宣言した翌48年には一変していた。

エルサレムに近いディル・ヤーシン村でユダヤ民兵の組織が250人を超すパレスチナ人を殺害する事件が起きた。その事件で両親・家族を殺害された子どもたち55人を、ヒンドゥは見捨てることが出来ず空き家になっていた祖父の家に連れて行き面倒を見ることにした。「ダール・エッティフェル」(子どもの家)と名付けられたそこには、日に日に戦乱の中で孤児になったパレスチナの子どもたちが送られ瞬く間に2百人の規模になっていた。後にミラル(フリーダ・ピント=写真左上)もここに預けられ多感な思春期を成長していく。全て私財を投じてのスタートに、パレスチナからもイスラムや米軍関係からも協力の手が差し伸べられていく。アラブとユダヤが共存していた時代を生きてきたヒンドゥは、子どもたちを教育するに当たって「力ではなく教育によって、希望を与えていくこと」を信念とし、その平和を目指すことをパレスチナのプライドとして語り続け、ダール・エッティフェルと子どもたちを守るため現実的な活動を進めていく。

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ミラルの母ナディア(ヤスミーン・アル=マスリー)と父ジャマール・シャヒーン導師(アレクサンダー・シディング=写真左下)の出会いも、パレスチナ占領下の影響が深く及んでいる。継父から性的虐待を受けて家を飛び出したナディア。街の酒場でダンサーになり一人暮らしをしていたが、ある日バスの中でユダヤ人女性の顔面を殴ってしまい6カ月の懲役刑に服した。テロリストと見られ服役囚も近寄らないファーティマ(ルバ・ビラール)と知り合ったナディアは、出所するときファーティマから親戚のジャマールを紹介され二人は結婚する。だが継父から受けた傷は心にも深く及んでいて、ナディアには夫と娘ミラルとの生活を築いていくことはできなかった。

ジャマールは、母親を亡くしたミラルを男手で育てることよりも尊敬し協力してきたヒンドゥに教育してもらう道を選択し、ダール・エッティフェルに預けていく。ミラルは17歳になった。折しも、ガザ地区での継続的なイスラエル支配に対する抵抗運動インティファーダが起こった。ダール・エッティフェルもその影響で一時閉鎖されると、ヒンドゥは生徒たちを難民キャンプの子どもたちの所へ教師として派遣した。だが、そこでミラルたちが目にしたのは、キャンプ地域の民家を銃剣で規制しながら取り壊していくイスラエル軍の行為。ミラルはインティファーダで立ち上がった青年とも知り合いになり、ダール・エッティフェルの壁に守られて見ることのなかったパレスチナのもう一つの現実を知る。だが、青少年らしい正義感と熱意を追いかけようとするミラルに、ヒンドゥは師として毅然とした態度で応答していくのだが。

1993年、イスラエルとPLOが米国のホワイトハウスで「オセロ合意」に調印し、パレスチナ暫定自治の道が開かれた。ヒンドゥの夢が、一つ政治の世界に一歩を記した。その後の政治は、この合意の先行きを楽観視するのを許さないかのように進んできた。それだけに、この作品の製作国にイスラエルの名が記され、パレスチナ人もユダヤ人のスタッフも汗水流して作り上げていることに拍手を送りたい。   【遠山清一】

監督:ジュリアン・シュナーベル 2010年/フランス=イスラエル=イタリア=インド/112分/原題:MIRAL 配給:ユーロスペース+ブロードメディア・スタジオ 8月6日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開!

公式サイト http://www.miral.jp