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©2008 RIZZOLI FILM

‘精神科治療’の病歴保有者に対してある種の警戒感を抱きやすい。だが、この映画を観終わると心に障がいがあってもなくても、同じ人間同士おおらかに、ゆるやかに受け止めあって楽しくやっていける社会をつくりたいという思いがわいてくる。実際、精神科病院をなくしたイタリアで起きた実話をもとにドラマ化された作品。

1978年にイタリアで公布された’バザリア法’は、精神科病院を全廃する世界で初めての法律。本作は、同法の実施が定着していく過渡期、1980年代の壮大な社会実験を実施しているデリケートな時代状況がうかがわれ、質の高いコメディタッチの人間賛歌に仕上がっている。

熱血漢ゆえに労働組合から’協同組合180’へ左遷されたネッロ(クラウディオ・ビジオ)。そこは精神科病院閉鎖で行き場のなくった患者たちの協働組合だった。だが精神患者の集まりに仕事は来ない。まだ薬漬けの影響で切手貼り等の補助的な仕事しか回ってこない。そこでネッロは、組合員たちが自分がやりたいことを会議で話させ、「床張り」の仕事が採択された。ネッロは’SI PUO FARE やればできるさ’を合言葉に励ましながら運営に取り掛かっていく。

はじめは仕事がほとんど入らない。それでも前向きに取りに出かけていくネッロ。そんなある日、事件が起きた。ネッロの不在中に床材が足りなくなり、みんながパニックになった。だが、統合失調症患者のジージョとルカが端材を集めさせ、二人でアースティックな寄木の床張りでしのいだ。それが評判になり協同組合の仕事は好転していく。だが、投与煤薬が減り、生活に自由度が増してくると様々な問題・課題も起きてくる。性欲の問題を何とかしろと騒ぎ出す男性たち、仕事先で依頼者に恋をしてしまうジージョを励ます仲間たち。折あるごとに、集まっては協議するのがなんともユーモラスで、おおらか。だが、悲劇も起きてしまう。。。

©2008 RIZZOLI FILM
©2008 RIZZOLI FILM

心の病、知的障がいを持っていても、人間をありのままの存在者として認め、包み込んでいく社会(インクルージョン)の在り方は、日本のドキュメンタリー映画「幸せの太鼓を響かせて」でも一つの実例をとおして提唱された。その流れの本流ともいえる本作には、人間の欲望にも目を向け、心の拠り所を希求する姿を笑いと涙いっぱいに描いている。それは、隣り人たらんと願い、福音を説くキリスト教会へのデリケートだが重要な問いかけでもある。

バザリア法が施行されて30余年、地域の精神保健センターなどの施設拡充や制度面の見直しもなされているイタリア。それでも「2500以上の協同組合があり、3万人に及ぶ’異なる能力を持つ組合員’に働く場を提供している」歴史と事実。そのことへのリスペクトに心からの拍手を送りたい。   【遠山清一】

監督:ジュリオ・マンフレドニア 2008年/イタリア/111分/原題:SI PUO FARE 配給:エスパース・サロウ 7月23日(土)よりシネスイッチ銀座にて全国順次ロードショー

公式サイト http://jinsei-koko.com