Movie「黄色い星の子供たち」――“生き抜く”ことへの勇気描く
日中戦争への口火となった盧溝橋事件は1937年7月7日。太平洋戦争が終結したポツダム宣言受諾から66年目を迎え、今年も戦争と平和を顧みる夏が近づいている。 ’ヴェロドローム・ディヴェール大検挙事件’(ヴェル・ディヴ事件)。フランスが、1940年ナチス・ドイツ軍に降伏した後、国内に誕生したヴィシー政府とナチスがパリ市内在住のユダヤ人2万4000人の強制国外退去を目標に一斉検挙し、42年7月16日未明にヴェル・ディヴ=冬季競輪場=に1万3千人を拘束した事件。戦後、フランス政府は、このアウシュヴィッツ強制収容所などへの移送関与をナチス・ドイツの行為として、長い沈黙した。だが、95年に’時効のない負債’として国家の関与について認め、7月16日を「ユダヤ人迫害の日」に制定した。
以後、数少ない生存者らによる証言やドキュメンタリー作品が発表されているが、本作は16歳以下の子どもたちの視点に重きを置き、資料や証言を基に出来事とヴェル・ディヴや収容所内の有様をリアルに再現しているところに高いオリジナリティがある。 フランスがナチスドイツの侵攻に降伏した40年ごろは、国内に30万人のユダヤ人が住み様々な分野と地域社会でコミュニティを形成していた。
映画のタイトルシーンは、降伏したパリの街並みを視察するヒトラーのドキュメンタリー画像(白黒)を流し、ドイツ軍将校が主人公の少年ジョーにカメラを向けると胸にユダヤ人の認識票’黄色い星’から次第にカラー画像になり42年現在の物語が展開する。事件の経緯も’真実’を再現しようする。政策の変動に乗じてユダヤ人を蔑視する市民。一方で、事件直前に情報をリークする市職員や警察官そして市民。結果は1万人以上が匿われたり逃亡を助けられた。善悪を論じるよりも、事実を事実として再構成され捕えられた人たちの生活と捕える者たちの準備が並行的に描かれていく。
子どもたちが輸送される最後まで収容所にいっしょにいた看護師アネット・モノ、収容所を脱走した主人公のジョーは実在のモデルがいる。ユダヤ人医師ダヴィッドは、数人いた医師たちの行動や目撃証言などから設定された人物像だが、その存在感は事実と証言に裏付けられている。そして、残酷な状況の中にあってもたくましさと健気さをもって’生き抜こう’とする子どもたちの姿。ヴェル・ディヴに’駆り集め’られた子どもたちは4051人。そのほとんどがアウシュヴィッツへの列車に乗せられ闇に葬られた。
聖書に書かれた王たちの行いのように、為政者たちと民衆の行いもまた歴史という事実から消し去ることはできない。脱走したジョーや看護師アネットらの証言や記録から彼らの言動が今日に甦らされた。子どもたちに’生き抜いて’という希望が、観る者の心に湧き、熱く、しっかりと刻まれるためにも。 【遠山清一】
監督・脚本:ローズ・ボッシュ。2010年/フランス・ドイツ・ハンガリー/125分/原題:La Rafle. 配給:アルバトロス・フィルム。7月23日(土)よりTOHOシネマズ・シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
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