BulBul Film as ©2010 Pandora Filmproduktion GmbH
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アドベントを迎えるころから町の商店街やイベント広場などにクリスマスの飾りつけが始まり、さまざまなセールで道行く人の気持ちも何かウキウキさせられる。だが、キリストが誕生したその時は、そこに集った人々は苦労の旅路を経てたどり着き、家もない貧しい羊飼いたちが御使いの招きに導かれて来た質素さと、永遠のいのちへの救い主という福音の光を仰ぎ見るひと時だった。北欧のクリスマスの一夜を舞台にした本作は、浮かれるような華やかさではなく、いのちへのつながりを芯に、幾色もの細い紐を絡ませて編み上げられていくしなやかな綱のような現代人のクリスマスストーリー。キリスト誕生当時の旅が、苦労といのちの危険にさらされていたように、現代にも微かないのちのつながりの中にクリスマスに込められた愛のメッセージが染み出てくる。

クリスマスイヴに起こった5つの物語が同時系列的に微妙に絡み合い、綴られていく。
冒頭、紛争の町中で狙撃手が、クリスマスツリーに使えそうな枝木を見つけた子どもに狙いを定めるシーンに引き込まれる。一転して、7か月前に妻のトネに家を追い出されパウルは、友人の医師クヌートに相談しにやってきた。だが、二人の子どもたちを引き取り、新しいボーイフレンドと親密になっていく妻の所へ戻れる手立てはない。クヌートの家を出たパウルだが、諦めきれず愛する子どもたちの姿を見たくなりトネの家の様子を見に行く。そして、クリスマスプレゼントを渡すためサンタの扮装をするため納屋にやってきたボーイフレンドに麻酔を嗅がせて、サンタに成りすまし、子どもたちのもとに向かうのだが…。イヴの夜は愛する人と過ごしたい切なさがコミカルに描かれる。

イブの日に、トマス少年は憧れの女の子ビントゥに小さな嘘をついてしまう。「家族がイスラム教徒なのでクリスマスは祝わない」と言う彼女に、「うちもそうだ。サンタも信じていない」と言ってしまう。そして、招かれるままヒンドゥの家に行き、アパートの屋上に据えてある天体望遠鏡で夜空を見るチャンスがやってきた…。

不倫関係にあるカリンとクリステン。イヴの逢瀬を愉しんだ二人だが、クリスマス過ぎたら結婚するとの約束を伸ばそうとクリステンが言い出した。身勝手な理屈に本心を見たカリンはクリステンを家から追い払う。だが、腹の虫は治まらないカリンは、クリステンの家族がイヴ礼拝している教会に出かけて行き、彼の妻の隣に座る…。

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今年のイヴは、故郷に帰ろうと思っていたヨルダン。だが、電車賃はなく無賃乗車が見つかり、電車を降ろされてしまう。町をさまよい、クリスマスツリーを売るトレーラーに触れたら警報が鳴り、持ち主のヨハンヌに見つかる。彼女は、かつてのボーイフレンドだったヨルダンと分かるが、彼はしばらく気づかなかった。ヨハンヌは、落ちぶれたヨルダンに温かい食事をふるまい、故郷の町に帰る身支度などの世話をする。ほんの短い再会を懐かしみ、両親が待つ故郷へ向かったヨルダンだが…。

パウルを送り出し、自宅に戻ったクヌートだが、妻とのクリスマスイヴを過ごすつもりはなく、再び自分の病院に出かけようとする。教会に行くことは、自分の心に偽善を行っているように感じられるという。そこに急患がいるので助けてほしいという電話が入る。出かけていくと、若い男にナイフを突きつけられ森の中の小屋に連れて行かれる。コソボから来た若い夫婦は、妻が妊娠していて今にも生まれそうな状態。アルバニア人とセルビア人の二人は、裏切り者として家族からも追われている。まともに病院に行くことが出来ないため、仕方なく電話がつながったクヌート医師を拉致してきた。そして産気づき、新しいいのちが誕生した。そのお産を助けながら、クヌートの心にも言いようのない変化が生まれてきて、思いがけない行動に駆られていく…。

いのちの誕生は、なんともクリスマスにふさわしく美しい。逃避行を続ける若い夫婦に抱かれた新しいいのち。夜空に広がる天からの祝福のような美しいシーン。華やかに盛り上げる演出ではないが、雪原に輝く月のように清かな光のなかにいのちのつながりを心に映し出してくれる。そして、映画の冒頭とラストシーンがつながった時の衝撃と感動。厳しくも温かい物語たちだ。   【遠山清一】

監督・脚本:ベント・ハーメル 2010年/ノルウェー=ドイツ=スウェーデン/85分/原題:Hem till jul 配給:ロングライド 12月3日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式Webサイト http://www.christmas-yoru.jp